麻酔薬が歯を再生する? ~ドラッグリポジショニングの研究~
高血圧の治療薬が育毛剤になる
歯周病が進行すると歯は脱落してしまいます。一度失った歯は再生してくれません。今は差し歯や入れ歯などの人工物を使って治療をしていますが、もし自分の抜けてしまった歯が再生できたら、それに勝る治療はありません。実はそんな薬が、今使われているものの中にあるかもしれないのです。「ドラッグリポジショニング」と言って、既に使われている治療薬から、別の効果を見つけ出せることがあります。例えば、高血圧の治療薬であるミノキシジルという薬は、発毛作用が確認され、現在は育毛剤として再開発されています。
麻酔薬が象牙質を形成
今ある薬の中に、歯の再生に効く薬も見つかっています。イギリスのある研究室が、アルツハイマー病の薬を患者の歯に入れたら、歯が少しだけ再生することを発見しました。アルツハイマーの薬が、歯の母体である象牙質の再生に効果があったのです。
アルツハイマーの薬は神経を興奮させる物質に関与することから、逆に神経を抑制する物質に関与する薬にも歯の再生の効果があるのではないか、という仮説が立てられました。神経を抑制する薬の代表といえば麻酔薬です。歯の内部には歯髄(しずい)という軟組織があり、歯髄にミダゾラムという麻酔薬を入れると象牙質を形成するような働きが見られました。これにより、歯だけではなく、骨も再生できる可能性が考えられます。
ドラッグリポジショニングは良いことだらけ
今使われている薬が別の治療にも使えると、さまざまなメリットがあります。新薬の開発にはコストがかかりますし、副作用の有無などの安全性の検証や販売までの認証に長い時間がかかるなど、簡単にできるものではありません。しかし既に販売されている薬は、安く手軽に手に入り、安全性も実証済みです。そのため、歯科だけでなく医療全般でドラッグリポジショニングの研究が進んでいます。歯の再生に関しては、やっと希望が見えてきたという段階ですが、次の世代がこの研究を受け継いで進めていけば、歯の再生治療は身近なものになっていくでしょう。
参考資料
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鶴見大学 歯学部 歯学科 教授 山越 康雄 先生
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