副作用をともなわない、新たな考え方のがん治療薬とは?
DNAの損傷とそれを修復する仕組み
生物の身体を構成する細胞には、その生物の設計図とも言える遺伝子の情報を持つDNA(デオキシリボ核酸)が存在します。DNAは、放射線や紫外線、さらには飲酒や喫煙などで有害物質がくっつくことによって、損傷を受けてしまう場合があります。細胞には、DNAの損傷をチェックして、ハサミのような役割を果たす酵素で損傷部分を取り外して修復する機能が備わっています。しかし、そうした修復が追いつかなくなると細胞が死んでしまったり、がん細胞の発生を引き起こしたりすることがあります。
現在のがんの治療法とその課題
現在、がんの治療法としては、外科手術によってがん細胞を切除する方法のほか、がん細胞のDNAを損傷させて死滅させるために、放射線を照射したり、抗がん剤を投与したりする方法があります。外科手術は患者にかかる負担が大きいだけでなく、治療の効果が及ばない場合もあり、放射線や抗がん剤は正常な細胞にも悪影響を及ぼす可能性があります。いずれの治療法もがんを根絶する決定打にはなっていないのが実情です。
がん細胞のDNA修復力に着目した治療法
がん細胞は正常な遺伝子が変異して利己的な増殖をするようになった細胞で、DNAの修復力は低下しています。そこで、がん細胞のDNAを直接狙うのではなく、その人のがん細胞でDNAの修復に用いられる酵素のいくつかの経路(マルチパスウェイ)を解析し、それら複数の経路を相乗効果を発揮して阻害する薬を投与することで、がん細胞を死滅させる治療法の研究が進められています。患者一人ひとりをDNAレベルで診断してマルチパスウェイのどこがダメになっているのかを解析し、それに合わせて論理的に作成した治療薬を用いるのです。この方法が可能になると、従来の抗がん剤のような副作用をともなわない、個人個人に合った、より効果的ながん治療が実現できます。近いうちに、がんの治療法は大きな変革の時を迎えるかもしれません。
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