謎の多い失語症のメカニズムを解明し社会復帰へとつなげる
言語を失う疾患
ある朝、目を覚ますと、周囲の人が聞いたことのない言葉を話し、自分が話す言葉が通じない、また外に出てみると道路標識や看板に書かれている文字もわからない、「失語症」とはこれに近い状態になる疾患です。脳血管障害や、事故で脳を損傷したりすると、脳の中にある「言語野」という場所がうまく働かなくなり、言葉に関係する幅広い分野にトラブルが起こることがあります。こうした失語症を研究する学問分野が言語聴覚学であり、臨床現場では言語聴覚士という医療職がリハビリテーションを担当します。
失語症のリハビリ
失語症で最も多い症状は、目の前にペンを差し出され「これはなんですか?」と聞かれても「ペン」という言葉が出てこない症状です。しかし、言葉が出なくても薄っすらと文字が頭に浮かぶ人もいます。こういうケースでは、「ペン」という文字を書き写したり、さらにそれを音読する訓練や、「ペン」と発音するための口の動かし方について訓練を繰り返します。失語症の改善は、非常に緩やかなものですが、こうした地道な訓練を通して「ペン」という言葉を発するまでの時間を徐々に短くしていくのです。
社会復帰を実現するために
まだ解明されていない部分が多い失語症ですが、最近大きく進歩した面もあります。例えば言葉は、その言葉を構成する音や意味、文字といった要素に分かれていますが、それぞれに特化したリハビリプログラムが作られるようになりました。またファンクショナルMRI(fMRI)といった機器が発達し、脳のどの部位でどのような活動が行われているかが測定できるようにもなり、よりきめ細かく効率的な治療が可能になりました。
失語症患者は現在国内に50万人いるとされ、その多くは社会復帰や復学が容易ではありません。失語症が起こるメカニズムを解明し、また克服するための道筋を見つける言語聴覚という分野には、大きな期待が寄せられています。
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先生情報 / 大学情報
県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 コミュニケーション障害学コース 講師 津田 哲也 先生
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