講義No.10463 医療技術

謎の多い失語症のメカニズムを解明し社会復帰へとつなげる

謎の多い失語症のメカニズムを解明し社会復帰へとつなげる

言語を失う疾患

ある朝、目を覚ますと、周囲の人が聞いたことのない言葉を話し、自分が話す言葉が通じない、また外に出てみると道路標識や看板に書かれている文字もわからない、「失語症」とはこれに近い状態になる疾患です。脳血管障害や、事故で脳を損傷したりすると、脳の中にある「言語野」という場所がうまく働かなくなり、言葉に関係する幅広い分野にトラブルが起こることがあります。こうした失語症を研究する学問分野が言語聴覚学であり、臨床現場では言語聴覚士という医療職がリハビリテーションを担当します。

失語症のリハビリ

失語症で最も多い症状は、目の前にペンを差し出され「これはなんですか?」と聞かれても「ペン」という言葉が出てこない症状です。しかし、言葉が出なくても薄っすらと文字が頭に浮かぶ人もいます。こういうケースでは、「ペン」という文字を書き写したり、さらにそれを音読する訓練や、「ペン」と発音するための口の動かし方について訓練を繰り返します。失語症の改善は、非常に緩やかなものですが、こうした地道な訓練を通して「ペン」という言葉を発するまでの時間を徐々に短くしていくのです。

社会復帰を実現するために

まだ解明されていない部分が多い失語症ですが、最近大きく進歩した面もあります。例えば言葉は、その言葉を構成する音や意味、文字といった要素に分かれていますが、それぞれに特化したリハビリプログラムが作られるようになりました。またファンクショナルMRI(fMRI)といった機器が発達し、脳のどの部位でどのような活動が行われているかが測定できるようにもなり、よりきめ細かく効率的な治療が可能になりました。
失語症患者は現在国内に50万人いるとされ、その多くは社会復帰や復学が容易ではありません。失語症が起こるメカニズムを解明し、また克服するための道筋を見つける言語聴覚という分野には、大きな期待が寄せられています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 コミュニケーション障害学コース 講師 津田 哲也 先生

県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 コミュニケーション障害学コース 講師 津田 哲也 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

リハビリテーション科学、保健福祉学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私が研究をしている失語症をはじめ、コミュニケーション障害と呼ばれる疾患を患うと、社会生活に大きな影響が出てしまいます。言語聴覚士とは、こうした人たちに寄り添い、より早く社会復帰ができる道を、ともに探していく仕事です。
決して簡単なことではありませんが、臨床や研究を通して自分の成長を実感しやすい分野であるとも思います。あなたもぜひ、言語聴覚という分野や、その社会的な意義、やりがいについて目を向けてみてください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

県立広島大学に関心を持ったあなたは

県立広島大学は、教育、研究、地域貢献、国際交流のいずれにおいても公立大学として一級の大学になっています。「主体的に考え、行動し、地域社会で活躍できる実践力のある人材の育成」を目標に、教養教育では、大学4年間の学士課程教育を通じて実施する「全学共通教育科目」を設定するとともに、専門教育においては、教養教育との連携を図りながら、「専門科目」を系統的に設定することにより、バランスのとれた教育内容を提供していきます。