植物の細胞壁から循環性のある高分子素材を開発
植物のリグニンが持つ多様な機能
立派な木材も、使った後の割りばしも、化学組成という観点に立つと価値は同じです。木材も割りばしも植物としての成分は同じだからです。植物の細胞壁を構成するのは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンという3つの高分子です。セルロースが紙などに利用されている一方で、構成成分の30%を占めるリグニンは構造が非常に複雑なうえ、反応性が高いので扱いにくく、燃料としてしか利用されていません。そこで、現在ほぼ未利用なリグニンを活用する研究が進められています。有機化学処理を行うことで、リグニンからエレクトロニクス材料やプラスチック、生体材料など、多様な素材を作り出せることがわかってきました。
素材をデザイン可能
リグニンは、常温常圧で硫酸とフェノールを同時に反応させることにより、有機溶剤に溶ける「リグノフェノール」として抽出されます。同時にセルロースも酸に溶けた糖の状態で取り出せるので、植物を余すところなく利用できます。リグニンの構造は植物の種類によって少しずつ異なります。また反応に使うフェノールの種類を変えると性質の違ったリグノフェノールができます。それらを組み合わせることによって、出来上がる高分子素材を設計・制御しデザインすることが可能です。
植物の価値を上げて森林の維持へ
森林では、時間はかかっても植物はすべて分解されて循環しています。植物資源であるリグニンから作り出した素材も、リサイクルののち最終的には自然へ返す必要があります。人も生態系の一部として炭素を循環させるのです。循環型社会の実現に大きな可能性を持つリグニン原料の素材ですが、素材としての価値が認められなければ世の中には広まりません。そこで、リグニンならではの高機能性など高い価値を付加できるよう開発が進められています。
そして木材などの価値を高めることで経済が回れば、衰退しつつある林業にフィードバックすることができ、森林を維持することにも役立つと期待されています。
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先生情報 / 大学情報
県立広島大学 生物資源科学部 生命環境学科 環境科学コース 准教授 青柳 充 先生
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