認知症の人に自分で考え決定してもらうことの大切さ

認知症の人に自分で考え決定してもらうことの大切さ

自己決定の機会を増やす

認知症の人のケアにおいては、本人ができるかもしれないことも、周囲が代わりに考え、決めてしまうことがあります。しかし、治療法や暮らす場所といった重大な決断は難しくても、小さなことであれば自分で決断できることもあります。近年、ある介護老人保健施設で暮らす認知症の人を対象に、入浴後に着る服や飲むドリンクの種類、レクリエーションの時間の活動内容など、日常生活の中でなるべく多くのことを自分で決めてもらうという介入が行われました。たくさんある選択肢の中から選ぶことは難しいので、例えば服であれば支援する側が2着ほど事前に選んで、どちらがいいかをその都度決定してもらいました。

認知や意欲が改善

約2カ月の介入の結果、認知症によって低下していた認知や意欲といった力が改善、あるいは維持されるケースが見られました。また「どちらがいいですか」と尋ねる支援者との会話が増えたことから、自然と笑顔が増え、他人に対する興味を取り戻す人もいました。支援者側においても、初めは自分で決定することができなかった人が徐々にできるようになり、自分たちの問いかけに応えてくれるようになるなど、日々取り組むケアの成果や手ごたえが実感できるといった副次的な効果も生まれました。

認知症になってもその人らしく

生活の中では「今日は何を着ようか」「朝起きて何を食べようか」といった小さな決断が数多くあり、その積み重ねがその人らしさを形作っています。認知症の人も、その人らしさや快活さを保って生きていくためには、自分で考えて自分で決めるという機会をなるべく多くもつことが大切なのです。
認知症に関しては解明されていないことも多くあります。超高齢社会の日本では、認知症になる人は今後も増え続けるでしょう。認知症になってもなるべくこれまで通り、自分らしく暮らせる社会をつくるためには、この自己決定の研究のように、認知症看護についての地道な研究や試行錯誤が欠かせないのです。

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先生情報 / 大学情報

県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 看護学コース 准教授 渡辺 陽子 先生

県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 看護学コース 准教授 渡辺 陽子 先生

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認知症看護、老年看護学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私が携わる看護の魅力は「答えがただ一つではない」ところだと思います。正解がないからこそ、ケアを創造して実践するやりがいや、新しい発見があります。また、教員という立場になってみると、学生たちから新しい視点に気づかせてもらうこともあります。
もしあなたが看護の道に進みたいなら、地域社会で起こっている、看護と切り離せないことに興味をもってください。また、看護の現場では患者さんやご家族のさまざまな感情に触れることになります。自分の中にある楽しさや喜び、怒りといった感情を大切にしましょう。

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県立広島大学は、教育、研究、地域貢献、国際交流のいずれにおいても公立大学として一級の大学になっています。「主体的に考え、行動し、地域社会で活躍できる実践力のある人材の育成」を目標に、教養教育では、大学4年間の学士課程教育を通じて実施する「全学共通教育科目」を設定するとともに、専門教育においては、教養教育との連携を図りながら、「専門科目」を系統的に設定することにより、バランスのとれた教育内容を提供していきます。