キラルなイオン液体が安全な薬をつくり出す

キラルなイオン液体が安全な薬をつくり出す

現在の薬の課題

現在市販されている多くの薬は、キラルな構造を持つ化合物です。キラルとは、3次元の物体とその鏡像とが、右手と左手のようにぴったり合わない形になっていることです。このような薬は、片方の分子に薬効があっても、もう片方の分子には薬効がないものがほとんどです。薬効のある分子だけを取り出して薬にできれば理想的ですが、分離が難しいため、多くは両方の分子を含んだままの薬になっています。しかし、薬効がない方の分子の存在が後々悪影響を及ぼすことも考えられ、実際に過去には薬害につながったケースもありました。そのため、キラル化合物を分離して薬を製造する方法が模索されています。

イオン液体を触媒に

そこで重要になるのが触媒です。複雑な構造の薬を合成するには、反応を効率的に行うための触媒が必要であり、多くは有機触媒を用いています。一部の有機触媒にはレアメタルや貴金属などが使用されることがあり、コストやリサイクルに課題があります。そこで、イオン液体を触媒とする研究が進められています。イオン液体は、室温で液体になる塩であるため、環境に優しく安全性の高い物質です。また、繰り返し使えるという経済性も備えています。キラルな特性を持たせたイオン液体を触媒に使うと、薬効のある方の分子だけを作り出すことができます。

DNAを溶かし込む

キラルではないイオン液体にキラルな特性を持たせる方法として、生体高分子を溶かし込むという方法があります。DNAの二重らせんは右巻きのキラル構造です。通常DNAは水にしか溶けないため、イオン液体の分子構造をデザインしてDNAを溶かすイオン液体を作り、溶けた後にDNAが二重らせんを再構築できるようにします。また実験的に、このDNAが溶けているイオン液体にポルフィリンという化合物を溶かし込んだところ、溶かし込む前はキラルではないポルフィリンが、DNAの影響によりキラルの性質を持ち始めたのです。このようにイオン液体が新しいキラル触媒を作る助けとなり、将来の製薬に役立つと期待されます。

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大分大学 理工学部 理工学科 生命・物質化学プログラム 准教授 信岡 かおる 先生

大分大学 理工学部 理工学科 生命・物質化学プログラム 准教授 信岡 かおる 先生

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機能物性化学、創薬学、生体化学

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メッセージ

興味のあることに対して諦めずに取り組み、冒険することは素晴らしいことです。日本では、好きなことをしたり、外を一人で歩いたり、勉強したりするのは当たり前にできますが、それができない国もあります。日本にいて、何もせずにいるのはもったいないです。冒険といっても、がっちりと装備を固めて大きなリュックを背負うようなものではなく、つま先立ちくらいに少し背伸びをするイメージです。つま先立ちのような小さな挑戦の積み重ねが、あなたの将来につながっていくはずです。

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