動物が自然環境の中で適応するために重要な脳での情報処理
動物は刻々と変化する自然環境の中で生きている
動物は、それぞれの生存に適した自然環境の中で生きています。しかし、その自然環境も、一定ではありません。餌や天敵といったほかの生物との関係も刻々と変化しています。したがって、環境の多様な情報の中から重要な情報を取り出して、行動として適切に出力することが、生きていくためには重要です。脳は、このような情報処理を行っています。この脳の構造や働きは、遺伝子によってプログラムされています。しかし、遺伝子だけでその働きが決まっているわけでもありません。
「忘れさせる」遺伝子と神経細胞
私たちは、いつの間にか忘れているという経験をいつもしています。ですので、「忘れる」というのは受動的な過程であると何となく思っているかもしれません。実際、生物学の世界でも、10年くらい前まで、そのように考えられてきました。しかし、遺伝子に異常があって「忘れることができなくなった」動物が見つかりました。この遺伝子の働きから、「記憶を忘れさせている細胞」があって、「記憶を忘れなさい」というシグナルをだしていることがわかりました。「積極的に記憶を忘れさせる仕組み」があって、それが遺伝子にプログラムされていることになります。しかし、その仕組みがいつ使われるかは、環境によって変わってくるということもわかってきました。つまり、遺伝子によるプログラムと環境との相互作用によって、情報処理も変わってくるということです。
遺伝子を使って動物の脳での情報処理をのぞき込む
脳の活動をすべて見ることができれば、情報処理の仕組みはわかるかもしれません。そこで、脳にある神経細胞の活動を可視化する手法が開発されました。蛍光タンパク質の遺伝子を神経細胞だけで働かせて、特殊な顕微鏡で観察します。線虫という1mmほどの小さな動物を使って調べると、脳の全ての神経細胞の活動を一度に測定できます。機械学習を使って神経細胞の活動を調べると、個体ごとに情報処理が大きく異なっていることがわかってきたのです。
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九州大学 理学部 生物学科 教授 石原 健 先生
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