感覚は脳にどのように伝わりどのように処理されるのか?
物をつかむとき、脳の中では何が起こっている?
物をつかむとき、手のさまざまな部分が同時に物と接触します。脳の中でそれらの情報がどう処理されているかを調べると、面白いことがわかってきました。最初は各部分からバラバラに入ってくる情報が、やがて同時に刺激されるいくつもの部分がひとつの情報としてまとまって脳細胞に入ってくるようになります。つまり、普段、同時に刺激されるという経験が積み重なると、その際に刺激される場所が、脳の中で束ねられる「収束」という現象が起こるのです。
口内感覚を義歯の改良やリハビリに役立てる
口の中の感覚が脳にどのように伝えられるかについても、手の場合と同様です。物をくわえるときに同時に刺激される口の中の部位が、同じ脳細胞に集まってきて束ねられている、つまり収束が起こっていることがわかっています。口の中の感覚は個人差が大きいのですが、こうした口腔生理学の分野での解明が進めば、入れ歯が不快で使えないという場合も、より快適な義歯の開発が可能になるかもしれません。また、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)などが困難な人がどのような訓練をすればいいのかといった、オーラルリハビリテーションの分野への応用も期待されています。
何気ない動作も脳の働きが支えている
人は、基本的には生後の発達の過程で、さまざまな経験に基づいて脳の回路が作られていきます。この回路が壊されると、普段何気なくやっていることがまったくできなくなることがあります。例えば脳梗塞(のうこうそく)などで脳に損傷が生じると、目の前の服をどうやって着たらいいかわからないといった、「着衣失行」という状態が起こることがあります。これは学習によって獲得した「服を着る」という動作の神経回路が、脳の損傷で壊されてしまうことから起こる状態です。
このような、高度で精密な脳の働きを研究することは、口腔生理学の分野はもちろん、高齢化にともなうさまざまな問題の解決にも重要なのです。
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先生情報 / 大学情報
東北文化学園大学 医療福祉学部 看護学科 教授 戸田 孝史 先生
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