人間が「反応」するまでに身体で何が起こっているのか
反応までの時間
例えば、短距離走のスタートにおいて、選手はピストル音を聞き、その音という情報を脳内で処理した後に筋肉へ指令を出して走ります。この外部からの刺激に対して行動が生じるまでの「反応」の時間は、運動生理学領域の重要な研究テーマの一つです。ある研究では、被験者に光信号を提示し、それを確認した後すぐに手等を動かすという実験を行いました。被験者の筋肉に電極を貼り、筋肉が動く際に発する微弱な電気を捉えることで、生体内の処理に関わる「反応時間」が正確にわかります。また、経頭蓋磁気刺激装置という機器を用いて運動をつかさどる「運動野」に直接刺激を与えると、筋肉は勝手に動きます。この刺激を与えて筋肉が動くまでの時間は「脳から筋肉に信号が降りるまでの時間」として捉えることができます。
脳内で処理する時間
さらに、生体内の処理に関わる「反応時間」から「脳から筋肉に信号が降りるまでの時間」を差し引くと、「脳内で処理する時間」がわかります。冒頭の実験を数週間にわたって実施した被験者は、「脳内で処理する時間」が短くなることがわかっています。一方で「脳から筋肉に信号が降りるまでの時間」は回数を重ねても変化がみられません。これらの具体的なメカニズムについてはまだ分からないことがありますが、反応時間を短くするには「脳内で処理する時間を短くすることが必要」といえます。
認知症への応用も
短距離走では、ピストルが鳴って0.1秒よりも短い時間でスタートするとフライングになります。これは人間が音を聞いて体を動かすまでに最低でも0.1秒以上はかかるという医学的根拠に基づいています。しかし、上で紹介したように、少なくとも「脳内の処理する時間」はトレーニングによって短縮できることがわかっており、その「常識」がくつがえる日がくるかもしれません。また、「反応時間」の長さを維持したり、短くしたりすることは、人間の認知機能における「情報の処理速度」を良くすることにもつながるため、将来的に認知症予防の一助になるかもしれません。
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鹿屋体育大学 体育学部 スポーツ生命科学系 准教授 與谷 謙吾 先生
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