「黒潮」は熱帯域から流れる栄養の動脈
実は黒潮も栄養を運ぶ
「黒潮」は太平洋を日本列島の南岸に沿って流れる暖流です。これまでは、栄養がない黒潮が、千島列島に沿って南下する栄養が豊富な親潮とぶつかることで、三陸沖は魚が集まる好漁場となると言われてきました。しかし最近では、黒潮の表層には栄養が少なくても、光の届かない亜表層には豊富な栄養があるという研究結果が発表されています。こうした黒潮の調査は、調査船のセンサで直接測定するほか、栄養の流れやプランクトンの増殖などについてはコンピュータ上で数値モデルを使ったシミュレーションが行われています。
乱流で栄養が巻き上がる
生物の死骸が分解されると窒素やリン、硝酸塩などの栄養になり、深く沈降します。熱帯域で作られたこれらの栄養は、西に流れる赤道海流により運ばれ、黒潮の源流となります。植物プランクトンが増殖するには光が必要なため、これらの栄養が光の届く表層まで巻き上がる必要があります。海流は浅瀬や岩礁を通ると乱流が起こります。黒潮はトカラ列島(鹿児島県)や足摺岬(高知県)などの半島、伊豆海嶺などの浅瀬を通る時に乱流が起き、栄養分が巻き上げられるのです。黒潮は1日あたり100km程度もの速い流れのため、乱流により広く栄養分が巻き散らされていきます。さらに栄養のある亜表層は三陸沖で光の届くところに上昇します。そのため、三陸沖では植物プランクトンが多く繁茂し、食物連鎖のために好漁場となるのです。
生物ポンプで炭素を循環
植物プランクトンが体を作るためには炭素も必要です。海水は大気から二酸化炭素を取り込み、植物プランクトンに炭素を供給します。植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、それを魚が食べ、そのフンや死骸が沈降していくことによって、大気と海洋間で炭素の循環が起こっています。これを生物ポンプといいます。植物プランクトンが多く繁茂することで二酸化炭素を取り込む量が増えるため、三陸沖は地球の海洋で最も二酸化炭素の吸収率が高いスポットとなっています。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 准教授 長井 健容 先生
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