大気と海洋の結びつきが生み出す巨大な「水塊」を探る
日本の近くにもある、不思議な「海水の塊」
海水の水温や塩分には場所や深さによる違いがあります。世界中の海を調べると、海の中には、同じような水温と塩分を持つ海水が塊のようになって現れるところがあります。この海水の塊を「水塊(すいかい)」と呼びます。実は日本の近くの海には「亜熱帯モード水」という巨大な水塊が水深100~300mに存在しています。亜熱帯モード水は、水温と塩分がほぼ均一という特殊な性質を持っていて、九州南東部~関東にかけての沖合から、東は日付変更線付近・南は北緯20度あたりまで広く分布しています。
亜熱帯モード水のダイナミックな働き
亜熱帯モード水が作られる海域には、黒潮や黒潮続流という暖流が流れています。冬季は冷たい季節風にさらされるため、暖流が急激に冷やされ、海面から深さ数百メートルまでの海水が上下にかき混ぜられます。その結果、海の表層に厚い混合層ができます。この混合層の水は、春~夏にかけて海面の海水が温められることで、ちょうど「蓋」がかぶせられたような状態になるわけです。この海水が、亜熱帯モード水となります。亜熱帯モード水は、海流により運ばれるだけなく、実は海流を作り出す働きがあることが近年の研究で明らかになりました。亜熱帯モード水は亜熱帯反流と呼ばれる東向きの海流を形成していたのです。さらに、亜熱帯反流を通して、熱や水蒸気を大気に与え、風や降水などの気象にも大きな影響を与えていることが明らかになりました。
温暖化の影響を考えるうえでも重要な要素
海水は空気中の二酸化炭素を吸収しますが、亜熱帯モード水が形成される際は特に大量に吸収し、海中にため込みます。その海水は、やがて亜熱帯の海に流れていくので、その海域の海洋環境になんらかの影響を与えているはずです。また、亜熱帯モード水は、地球温暖化により少しずつ水温が上昇しています。今後、地球温暖化が海洋環境に与える影響を評価する上でも、亜熱帯モード水という水塊は重要なキーワードとなるのです。
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東京海洋大学 海洋工学部 海事システム工学科 教授 小橋 史明 先生
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