魚の細胞は不老? そのメカニズムに迫る
無限に分裂する魚の細胞
ヒトの細胞は分裂回数があらかじめ決まっていて、その回数以上は分裂できずに老化します。無限に分裂できる細胞も存在しますが、それは生命を脅かすがん細胞です。一方、魚の細胞は老化しません。正常な状態で無限に分裂できるのです。魚の細胞はなぜ老化しないのでしょうか。裏を返せば、ヒトをはじめとする哺乳類の細胞はなぜ老化するのでしょうか。実は、魚の細胞のように老化しないのが細胞の本来の姿なのです。
ヒトは進化の過程で老化を獲得した
ヒトの老化は、がんを予防するために進化の過程で得た生存戦略だと考えられています。がん化しそうな細胞を老化させることで増殖を抑えるのです。つまり本来は生存のために獲得した老化ですが、近年の急激な寿命の伸長により、現在はさまざまな病気の大きな原因となってしまっています。一方、魚もがんになりますが、魚にはリンパ節がなく転移しにくいため、がんで死ぬことはほぼありません。また、魚は水中で生活しているので紫外線の影響が少なく、がん自体にもなりにくいと考えられます。
複雑な老化の機構
ヒトには老化に関わる「p16」という遺伝子がありますが、魚にはありません。しかし、老化は遺伝子だけで引き起こされるものではなく、いろいろな要素が絡み合った複雑な機構があると考えられています。例えば生物のDNAは大部分がメチル化された状態ですが、魚の細胞にDNAのメチル化を解除する薬を加えると老化することがわかっており、「メチル化」もひとつの鍵です。またヒトと違って魚は心臓や神経の細胞も再生します。この再生能力の高さも不老に関係している可能性があります。
一方で、細胞自体は不死でも個体が不死身なわけではありません。年を取るとともに恒常性が崩れて死に至るので、「細胞の不老」と「個体の寿命」は分けて考える必要があります。今後は、不老の解明をめざすとともに、寿命との関係や、まだあまりわかっていない魚の細胞の基本的な機能の追究が求められます。
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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 准教授 二見 邦彦 先生
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