新薬やワクチン開発につながる「ウイルスもどき」とは?
ウイルスのタンパク質の殻を人工的に合成
ウイルスの中心には遺伝情報であるDNAやRNAなどの「核酸」があり、その周囲を「キャプシド」というタンパク質の殻が覆っています。このキャプシドの構造を「ペプチド」という成分を用いて人工的に合成することができます。ペプチドもタンパク質も、ともにアミノ酸で形成されており、アミノ酸が数個から数十個つながったものがペプチド、それ以上の数がつながったものがタンパク質となります。
ピンポイントでがん細胞を狙い撃ちする新薬も
人工的に合成されたキャプシドは、天然のウイルス同様に細胞内に侵入できます。いわば「ウイルスもどき」のようなものです。ただし毒性はほとんどないので、医療に役立てることができます。通常のウイルスは内部に核酸を持ちますが、ウイルスもどきのキャプシド内部に薬を入れて体内に取り込むのです。分子設計に手を加えれば、特定の患部に薬を届けることも可能になります。例えば、特定のがん細胞に結合する分子をウイルスもどきに付与すれば、狙ったがん細胞だけに届く新薬が作り出せるでしょう。
新しいワクチンの創出にもつながる
コロナウイルスやHIVウイルスなどは、キャプシドの周りに「エンベロープ」という脂質の膜を備えた高度な形状をしています。エンベロープ型ウイルスは、生物の細胞膜とエンベロープを融合させることができるため、体内に侵入しやすいという特性を持っています。実は、まだ不完全ではありますが、エンベロープ型ウイルスキャプシドも人工的に合成できます。
弱毒化、不活性化したインフルエンザウイルスを体内に入れて、免疫細胞に抗体を作らせることがインフルエンザワクチンの基本的な仕組みです。体内に侵入しやすい人工エンベロープ型ウイルスキャプシドを活用して免疫細胞を刺激すれば、いろいろな種類のワクチン開発につながるでしょう。天然のウイルスを実験に使うことは危険がともないますが、ウイルスもどきには毒性がほとんどないので、医療をはじめ幅広い分野に応用できるメリットがあります。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 工学部 化学バイオ系学科 教授 松浦 和則 先生
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