「見える化」が、持続可能な社会へのキーワード

「見える化」が、持続可能な社会へのキーワード

脱炭素社会に向け水素に期待

環境問題を考える上で、二酸化炭素の排出を削減するためのエネルギー源として「水素」が注目を集めています。水素は地球上のさまざまな物質と結合して豊富に存在しており、枯渇の心配がありません。利用時に二酸化炭素を排出しないため、脱炭素社会をめざす取り組みの中で重要な位置づけとなっています。しかし、水素は、常温では気体であり、取り扱いが難しいという欠点があります。そのため、水素を液体や水素化合物にして効率的に貯蔵・輸送する「エネルギーキャリア」という方法が検討されています。

ギ酸を使った燃料電池の高性能化

そのひとつとして「ギ酸」があり、そこから電気を取り出すのに必要なのがギ酸を使った燃料電池です。ギ酸は水素・炭素・酸素からなる単純な構造で、二酸化炭素を利用して合成できます。常温で液体のため扱いやすく、輸送や貯蔵に適しており、液体を直接使う燃料電池として高出力を得やすい物質です。ギ酸による燃料電池は、さらなる性能向上が実用化への課題となっています。発電効率は電池内の物質の移動によるところが大きいので、その性能を上げるためには、電池内での物質の動きの把握が重要です。燃料電池の電極は、細かな穴がたくさん空いた状態になっており、その穴を液体が通過します。その動きをさまざまな方法で「見える化」して正確に把握し、液体がスムーズに移動できるように、動きをコントロールすることが求められます。

新しい空調の仕組み

また現在、新しい方式の空調システムとして、「デシカント空調」が実用化されています。これは、除湿剤を用いて湿気を吸着することで、室内の除湿をしつつ温かい空気を送り出すという仕組みです。開発にあたって大事なのは、機械内で、水蒸気や温かい空気がどのような動きをしているのかを知ることです。それによって、除湿の効率化を図ることができます。
燃料電池も空調も、機械の中など見えないところの熱や物質の移動を「見える化」し、それを制御することが、高性能化の鍵を握っていると言えます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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金沢大学 理工学域 機械工学類 准教授 辻口 拓也 先生

金沢大学 理工学域 機械工学類 准教授 辻口 拓也 先生

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機械工学、化学工学、熱工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

「見えないものを見えるようにする」という研究は、空想や論理に基づいて仮説を立てて、それを実証していくという過程が楽しいのですが、仮説が見事に外れることもとても多いものです。でもその時に、悔しさと同時に、「どうしてだろう」とわくわくする気持ちもあって、それを面白いと思えるところが機械工学・化学工学のいいところです。
「失敗した!」とがっかりしてしまうだけでなく、やりがいがある、ととらえてみてはどうでしょう。何事もどんどん失敗してチャレンジしていけばよいのです。

先生への質問

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金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。