医療に貢献するバイオミメティクス(生体模倣技術)
整形外科に欠かせない人工膝関節や人工股関節
人工膝関節や人工股関節について聞いたことがありますか? 生体の機能を取り替える整形外科用のインプラントで、人工関節は変形性関節症やリウマチなどによる痛みを除去し、運動機能を回復するものとしてなくてはならないものとなっています。しかし、人間の膝関節や股関節は、非常に厳しい条件で動いており、歩行時でも、かかとが着地する瞬間には体重の1.5~7倍もの荷重がかかります。こうした条件下で70~80年も動く関節に代わるような人工膝関節や人工股関節は、なかなか実現できないのも現状です。
耐摩耗性と潤滑性の向上
機械工学と医学がコラボレーションした技術領域は医療工学と呼ばれます。現在では一回手術をしたら20年間ぐらいは取り替えなくてもよくなりました。寿命を縮める要因は、関節の動く部分の材料と材料がこすれあって摩耗することで、いかに滑らかに動き摩耗しないようにするかがポイントです。そこで、ナノレベル(10億分の1メートル)での微細な加工・調整をすることで潤滑性を上げ、寿命を大きく伸ばすことに成功しました。こうした二つの物体がくっついて滑るという、摩擦・摩耗・潤滑のメカニズムなどを扱う学問領域をトライボロジー(tribology)と呼んでいます。
人間の生体の仕組みをまねた技術で問題解決
しかし、ナノレベルの加工だけでは性能を上げることにも限界があります。そこで着目されたのが、人間の生体がもつ素晴らしい仕組みです。例えば関節にある軟骨はコラーゲンという固いタンパク質がスポンジ状になっていて、中には潤滑液が染み込んでいます。これがクッションの役割を果たし、ぶつかった時などは潤滑液が染み出て滑りをよくします。この軟骨をまねた材料を人工関節に使うことで、問題を解決しようというわけです。こうした技術をバイオミメティクス(生体模倣技術)と呼び、ポリビニルホルマールという軟骨に似た材料が発見されています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
熊本大学 工学部 機械数理工学科 教授 中西 義孝 先生
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