交通事故を起こした! そのとき損害賠償は?

交通事故を起こした! そのとき損害賠償は?

事故を起こしてしまった

携帯電話で話しながら自転車に乗っていて歩行者にぶつかり、その人が転んでケガをしたとしましょう。民法709条には、「故意又は過失によって他人の権利……を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と書いてあるので、あなたは事故の責任を負わなければなりません。もちろん、自転車でぶつかっただけですから、普通はねんざ程度のケガで済むでしょうが、その人の頭蓋骨が異常に薄かったりすると、最悪、転倒の衝撃が致命傷となるケースもありえます。不幸にも、その人が亡くなってしまった場合、あなたは、どれだけの損害賠償を支払うことになるのでしょうか。

命の値段

他人を死なせた場合、損害賠償の額は、その人が生きていれば得られたはずの収入額(逸失(いっしつ)利益といいます)がベースとなります。裁判所は、まず、被害者の年収がいくらだったかを調べ、その年収を67歳まで積み重ねた合計額を計算します。ここから、生活費として30%~50%を差し引き、さらに利息分5%を割り引いた結果が、逸失利益の額です。損害賠償は、この額にプラスして、2~3千万円の慰謝料が加算されますから、例えば8千万円といった額が出てきます。本来、人間の命は値段をつけたり、お金で売り買いするものではありませんが、損害賠償の裁判では、こうやって金額に換算するわけです。

被害者の特異体質

被害者がたまたま頭蓋骨のとても薄い人で、そのために死んでしまった場合でも、全額の損害賠償を支払うことになるのでしょうか。被害者にも「過失」があった、例えば被害者が急に飛び出してきたというケースについては、過失相殺の条文があり、両方の過失の割合で割ることになっています。しかし、被害者の特異体質に関しては、実は、ぴったりあてはまる条文がないのです。外国には全額の損害賠償を認めるところも多いのですが、日本の裁判所は、賠償額を減らすというルールを採用して、このルールが民法の行間に書いてあるものとして計算しています。

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京都大学 法学部  教授 橋本 佳幸 先生

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メッセージ

私たちの社会は、多数の、そして多様な人々から成り立っているため、どうしても利害の対立や争いが生じてしまいます。法や裁判には、これを適切・公平に解決するというとても重要な役割があり、法律家は「社会生活上の医師」とも言われます。もちろん、適切・公平な解決といっても、科学的真理のような正解があるわけではありません。関係者の言い分に耳を傾け、公正な手続きを踏んで、ルールに基づき、説得力のある理由を付けて決定を下すことで、公平な解決を図る。法学部では、こうした議論の仕方を学びます。

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