なぜ国際社会はグローバルな課題に協力できないのか
国際協調は難しい
環境問題や人権侵害といった国際的な問題に対して、世界中の人々が「どうにかしたい」と考えていますが、解決のための協調はなかなかうまくいきません。その要因の一つに、問題解決のための意思決定を行う主体が「国家」に限られている点があります。強制力をもつ「世界政府」が存在しない国際社会では、自国の利益を優先でき、行動変更を強制されないため協調が難しいのです。もう一つは、文化や価値基準の違いです。例えば近年、中国の人権侵害を欧米は厳しく批判し、経済制裁をちらつかせますが、中国は欧米による価値の押し付けだと反発しています。
対立点と異なる責任
協調が難しい背景にはどのような対立構造があるのでしょうか。問題や現象は国境をこえますが、受ける影響の深刻さや解決にむかう熱意、そして経済的・政治的コストは国家によって大きく異なります。地球温暖化における先進国と途上国や太平洋島嶼国とロシア、難民発生国と受け入れ国などのように、影響とコストの不一致に基づく対立や責任の押し付け合いが存在するのです。このように「国境をこえたグローバルな課題」という意識と解決の必要性は共有していても、協調が難しいまま状況は悪化しているとさえいえます。
協調に向けて国際関係学ができること
では国際関係学には何ができるのでしょうか。例えば、アメリカが国家としてパリ協定(地球温暖化対策の国際的な枠組み)から離脱した際、一部の州や企業は実質的にパリ協定の内容を遵守すると連帯を示しました。また人権問題では、「世界人権宣言」や「国際人権規約」といった中国を含む世界各国が同意できる価値基準もあります。「戦争と平和の学問」として始まった国際関係学ですが、現在は国家だけでなく国際機関、地域統合体、NGO、企業など、研究対象はより複雑化しており、文化や経済、社会など、さまざまな領域をカバーする視点が欠かせません。多様な学問的視点から国際社会を分析し、国際社会全体の利益や平和に貢献することが、今日の国際関係学の大きな意義なのです。
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京都産業大学 国際関係学部 国際関係学科 教授 正躰 朝香 先生
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