人間の命と環境を守る高分子材料とは
化学と物理学で作り出す機能的な材料
プラスチックと皆さんが呼ぶ合成高分子やタンパク質をはじめとする生体高分子は、人間を含む生物の体を形作るだけでなく、私たちの生活の中でもいたるところに存在しています。化学と物理学の研究を基に、さまざまな工夫によって人工的に作り出すことのできる高分子材料は、バイオマテリアル(生体材料)として、あるいは環境を保護する材料として、今までにない機能を発揮する可能性を秘めています。
「生理活性材料」と「生体非侵襲材料」
治療や臓器移植の際に必要となるバイオマテリアルの分野では、生体に働きかけて活性化させる「生理活性材料」として、用途に応じてさまざまな種類の高分子材料が開発されています。また、薬の成分を高分子材料で包み込んで、必要なときに放出できるようなドラッグデリバリーシステムの分野にも活用されています。
こうした技術は、逆に生体に働きかけず、影響を極力与えない「生体非侵襲(ひしんしゅう)材料」の開発にも活用されています。例えば、アトピーや皮膚疾患で一般の化粧品が使えない人も利用できる化粧品を作ることができます。また、生体非侵襲材料は傷の上に貼っても人体に影響を与えないので、ばんそうこうに使えば、より高機能なものを作り出せます。
人間に優しい素材は環境にも優しい
これは、人間の体だけでなく、多種多様な生物によって成り立っている自然環境下でも活用することができます。例えば、船の表面のコーティング材料として、汚れや海洋生物が長期間付着しにくく、かつ海を汚染しない高分子材料を合成して利用する方法が考えられます。また、空気清浄機などに用いられるフィルターの素材に、花粉など特定の物質を吸着しやすい高分子材料を導入するといったアイデアも考えられます。
人間に優しい素材は、環境に優しい素材でもあります。こうした高分子材料の導入は、環境汚染の防止にも大いに役立ちます。高分子材料の研究開発は、これからの私たちの社会をよりよいものにしていくための鍵を握っているのです。
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先生情報 / 大学情報
富山大学 工学部 工学科 応用化学コース 准教授 中路 正 先生
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