医学に革命を起こすエピジェネティクス工学
学問を越境するバイオエンジニアリング
化学・生物学・医学と工学を結ぶバイオエンジニアリングは、今後の生命科学、環境科学の分野で、中心的役割を果たすことになる研究領域と言われています。こうした異分野との接点とも言える領域においては、まだまだ謎が多く、新しいサイエンスの可能性が広がっています。その一つに、高分子化学・有機化学・分子生物学を基礎としたバイオマテリアル(生体材料)の創製が挙げられます。バイオマテリアルとは、人工臓器をはじめ、体の中に使用する材料一般を指しますが、その中でも、新しい遺伝子操作を可能とする技術が開発されつつあります。
新しい遺伝子医療
かつては、人間の遺伝子内にあるDNAの塩基配列、いわゆるヒトゲノムを解析することで、さまざまな病気を治せるだろうと期待されていました。しかし実は、DNAの異常によって起こる病気はごく一部に過ぎません。人間の病気とは遺伝よりも環境要因によるものが多く、後天的な原因による病気は遺伝子操作では治すことができませんでした。しかし最新の研究によって、環境要因が遺伝子にどのような変化を及ぼすかが判明してきました。遺伝子の中の「ヒストン」と呼ばれる部分に後から加えられる情報が、生活習慣病など後天的な病気の原因になると考えられています。つまりヒストンのゆがみやゆるみを制御することができれば、それらの病気も治せるというわけです。それを工学的にコントロールする技術が、「エピジェネティクス工学」と呼ばれています。
未来の再生医療をになう
エピジェネティクスはまだ新しい研究分野ですが、塩基配列によらない新しい遺伝子操作を進めるために、確立が急がれています。この研究が進めば、細胞の分化の過程を解明することで、人間の細胞からさまざまな臓器を生成することができ、再生医療の飛躍的な進歩も可能となります。エピジェネティクスはこれまでの生物、医学の領域に革命を起こす研究であると期待されているのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 都市環境学部 環境応用化学科 教授 川上 浩良 先生
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