分野を越えてスマートマテリアルの開発に挑む材料科学
強度の向上だけではない新素材研究
材料強度学は、材料の強度や破壊のメカニズムを研究する分野です。新しい素材ができれば、その強度などの性質を、コンピュータシミュレーションを主な手法として調べます。しかし最近では、新しい素材の場合でもただ単に強度が優れているだけでなく、プラスアルファの特性をもつ素材が求められるようになりました。その性質は電気的なものであったり、磁気的な特性であったりとさまざまです。このような性質を「マルチフィジックス」と言います。マルチは「いろいろな」、フィジックスは「特性」という意味です。そしてそのような性質を利用すると「スマートマテリアル」という、よりよい物性をもった材料ができます。
カーボンナノチューブと人工筋肉
例えば、カーボンナノチューブという素材は蜂の巣状につながった炭素原子のシートを筒状にしたもので、直径は数ナノメートルと非常に小さなものです。このチューブに荷重をかけてどのように変形するかを調べると、いくら圧縮しても壊れないということがわかりました。さらに電子特性を調べてみると、圧縮したときには電気を通し、元に戻すと電気を通さなくなるという特性をもつことがわかりました。この性質を利用すれば、ミクロなスイッチやセンサとして応用できるのではないかと考えられています。
また、微細な穴がたくさんあいている「ナノ多孔質金属」という素材は、電解質に浸して帯電させると、筋肉のようにぴくぴくと動くことがわかっています。これは電荷によって表面張力が変化することが関係しています。
これからの材料科学
これまで、材料の変形は機械工学、物性は物理学と守備範囲が分かれていたのですが、扱う対象が小さく複雑になったため、今では協力し合うようになりました。研究分野が違うので大変な面もありますが、新しいものが生み出されたり、それが実用化されたりといったことが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター 教授 梅野 宜崇 先生
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