講義No.14480 材料工学

意外に簡単? 注目されるハイエントロピー合金のナノ粒子化

意外に簡単? 注目されるハイエントロピー合金のナノ粒子化

ハイエントロピー合金の利点

これまで「合金」は、ひとつのメイン材料に、ほかの元素を少量ずつ混ぜて作られていました。それにより、強度や硬度、耐熱性といった機能をもたせているのです。そして今、材料工学界では「ハイエントロピー合金」が注目されています。これは、複数の金属(多くは5種類以上)をほぼ同等比で混ぜる新しい手法で、新たな金属材料や機能が生まれる可能性が高まっています。
例えば、貴金属やレアメタルといった、高価な金属の代替材料も作れます。触媒に使われるプラチナの含有率を3分の1程度にして同等の機能を得られれば、材料費を抑えられて資源の有効活用にもなります。

水とレーザーでナノ粒子に

ハイエントロピー合金による触媒の開発も期待されています。この場合は、合金をナノ粒子にすることで表面積が増えて触媒効果が向上します。しかし、ナノ粒子にするには熱を加えるか、真空にして粉砕するといった手間とエネルギーがかかる課題があります。
その方法が探索されて、意外に簡単な方法が見つかりました。ビーカーに水を入れて、レンズを置きます。パルスレーザーのエネルギーをレンズで集約して合金に当てると、合金は粉砕されて、水中にそのナノ粒子が漂うようになるため、それを回収するのです。これなら家庭用電源でも可能です。こうした手法で、毒性のあるものの浄化や、水素生成の触媒など、目的に合ったハイエントロピー合金のナノ粒子が作られるようになるでしょう。

手軽だから広がる

また、粒子ではなく薄い「膜」を作ることもできます。真空管の中にいれた合金にレーザーやプラズマをあてると、管内に薄膜ができるのです。合金の薄膜は、自動車のエンジンやシェーバーの刃などに使われているコーティング用材料の代替え品としての活用が期待できます。
ハイエントロピー合金の開発や、その触媒などが実用化していくのはこれからです。ナノ粒子や薄膜の生成方法が確立されたことで、その活用は広がっていくはずです。

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先生情報 / 大学情報

金沢大学 理工学域 物類機械工学類 准教授 宮嶋 陽司 先生

金沢大学 理工学域 物類機械工学類 准教授 宮嶋 陽司 先生

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機能材料工学、超微細粒材料

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メッセージ

勉強は本来、新しいことを知る連続で楽しいものです。高校で楽しく思えなくても、大学での学びは自由で楽しくなります。ある教育関連の研究によると、本人の能力が伸びるかどうかは、大学の偏差値ではなく本人の取り組み方次第だそうです。私は大学受験に失敗し、ランクを落とした大学では成績が上位となりました。機械航空工学志望でしたが、電気電子工学を学び、巡り巡って機械工学の材料研究に関わっています。思い通りにいかなくても、その時々の目の前のことに真剣に取り組みましょう。

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