タンパク質の分解を制御することが治療につながる
生死のサイクルを秒単位で繰り返す
タンパク質は生命活動を担い、あらゆる面で人間の生きる営みを支えています。タンパク質とはアミノ酸が連なった「ひも」であり、タンパク質の設計図はDNA上の遺伝子に刻まれています。作り出されたタンパク質は、すぐにそのアミノ酸配列に応じて固有の立体構造に折り畳まれ、機能を持つようになります。それぞれのタンパク質は、生まれてから育ち、移動し、働き、分解されるという生死のサイクルを秒単位で繰り返しています。
タンパク質の生死を制御する研究
この「タンパク質の一生」に着目し、タンパク質の運命、つまり生死を制御する研究が進んでいます。2004年には、「ユビキチン―プロテアソーム系の発見」という研究テーマで、イスラエルとアメリカの研究者がノーベル化学賞を受賞しました。「ユビキチン」と呼ばれる物質は、特定のタンパク質に鎖のようにつながってくっつくと、そのタンパク質が不要であることを示す目印となります。この目印によってシュレッダーの働きをする「プロテアソーム」の扉が開き、タンパク質が切り刻まれるのです。その後の研究で、プロテアソームによるタンパク質の分解は、ユビキチンの存在だけでは不十分で、特定のタンパク質そのものに、定まった構造を取らない領域が必要であることが突き止められています。
分解を制御し認知症やがんの治療に
タンパク質の生死は、さまざまな生命現象や病気に関与しています。例えば、アルツハイマー型認知症はタンパク質が多すぎるために起こるとされ、タンパク質の分解を進めることが治療につながります。一方がんでは、がん化を抑えるタンパク質が分解され過ぎるので、分解を抑える必要があります。分解のメカニズムを制御することにより、病気の治療が可能になるのです。
最終的に目標となるのは、タンパク質のナノマシンを作ることです。分子標的レベルでタンパク質の分解を制御できれば、副作用の少ない治療ができるはずだからです。
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先生情報 / 大学情報
富山大学 工学部 工学科 生命工学コース 准教授 伊野部 智由 先生
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タンパク質科学先生への質問
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