バイオマテリアルで実現する薬の体内宅配サービス
届けたいところにピンポイントで運ぶ
「バイオマテリアル(生体材料)」は、人の体に移植するための人工素材で、使用される代表的なものでは人工臓器や人工関節、インプラントなどが挙げられます。人体は異物が侵入するとそれを排除しようと拒否反応を起こすため、生体組織になじむ素材が使われます。
このバイオマテリアルを使った、体内の必要な箇所にピンポイントで医薬品などを運ぶための「ドラッグデリバリーシステム」の研究が進められています。血管の中で異物とみなされないポリエチレングリコール(PEG)などを主成分とするバイオマテリアルでカプセルのようなものを作り、薬を中に入れます。届け先の臓器など細胞にタグ(目印)をつけて送り出しますが、目的地に到着したら、PEGはその部位の化学反応ではがれるようになっています。このように、必要な場所に必要な薬が届けられるというわけです。
筋肉再生や糖尿病の治療に
例えばプラスミドDNAという遺伝子は、筋肉に注射すると幹細胞が活性化して筋肉の再生を促します。この遺伝子を、ドラッグデリバリーシステムで体内の未到達空間に届けられれば、より多くの病気や障害の治療、QOL向上など、再生医療の可能性が広がります。
また糖尿病の治療や予防に期待がかかるのが「亜鉛イオンデリバリーシステム」です。インシュリンの分泌量が減ったり機能が低下したりすると、血液中に糖が充満して血糖値が高くなります。そこでドラッグデリバリーシステムにより、インシュリンの分解抑制機能を持つ亜鉛イオンを、肝臓にピンポイントに届けて糖の分解吸収を促進する方法です。
まだまだ広がる用途や可能性
治療薬や必要な成分を、目的の部位に拒否反応なしに安全に届けるドラッグデリバリーシステムは、今後の臨床現場においてさまざまな活用が考えられます。脳や神経系などこれまで難しいとされていた領域でも研究が進んでいます。ドラッグデリバリーシステムは、これまでの常識を覆す画期的な治療に欠かせないものとなるかもしれません。
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東京都立大学 都市環境学部 環境応用化学科 教授 朝山 章一郎 先生
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