金属イオンを切り口に人工酵素を作り出す
体内の金属イオンの働きとは
生物の体は、化学物質からできています。それらが化学反応を起こしエネルギーを生み出すおかげで、生物は活動できます。例えば、食べ物の消化には酵素の働きが欠かせません。酵素はアミノ酸が鎖状につながったタンパク質でできていますが、人体にある約3割の酵素は、金属イオンを結合しています。それらは、金属イオンがないと、酵素として働きません。タンパク質やアミノ酸は、有機化学の分野で学びますが、金属イオンのことは無機化学の分野で学びます。実は生物の体の中では、この無機化学の分野で学ぶ金属イオンが、とても重要な働きをしているのです。
触媒と錯体
「触媒(しょくばい)」という言葉を知っていますか。混ぜてもすぐに反応し合わない物質Aと物質Bとが、物質Xが入ることですぐに反応して物質Cに変化します。その物質Xの総称が「触媒」です。そして人の体内にも触媒がありますが、それが酵素です。そして金属イオンが結合している酵素は、有機化合物であるアミノ酸と金属イオンが化学結合した複合体です。これを錯体(さくたい、英語でコンプレックス)といいます。こうした酵素の中の錯体をヒントに、人の手によって合成した有機化合物とさまざまな金属イオンを組み合わせて、酵素と同じ働きをする錯体を作り出す研究が進められています。
人工の酵素を産業へ応用
酵素は、非常に高性能な触媒です。もともと生物の体内に存在しているタンパク質でできているので環境にもやさしく、幅広い応用が望まれています。しかしタンパク質は熱で構造が変化してしまうという弱点があり、化学工場などで工業的に利用するにはこの弱点を克服する必要があります。そこで頑丈で熱にも強い人工物を用いて、酵素と同じように働く触媒、すなわち人工酵素を作り出そうという研究が進んでいます。こうして作り出された人工酵素を使って、将来的にはメタンガスをメタノールに変えるなど、エネルギー問題の解決や資源の有効活用の仕組みづくりにつながる研究も進んでいます。
参考資料
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神奈川大学 化学生命学部 応用化学科 教授 引地 史郎 先生
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