光を使った体に優しい技術で、がんを可視化する
がん手術における課題「取り残し」
がんの摘出手術における「取り残し」は、長年の課題でした。がん治療に手術を選択した場合、組織によってはがんを完全に取り除くのが難しいので、組織ごと切除する方法がとられます。しかしこれは患者さんの健康に影響します。がんには組織の表面に突起した根の浅いものだけでなく、組織内部にもできる根の深いがん、あるいは表面に苔のように生えるがんもあります。つまり、がんには、見えるタイプと見えないタイプがあるのです。例えば膀胱がんのように尿管や膀胱の中にできるがんは、内視鏡でも確実に削り取れないことから、再発のリスクが大きいとされます。
光線を当て、がん化した細胞を光らせる
がん手術の際に、光線力学診断という方法を使って青い光を当てると、がん細胞が赤く光ります。がんのできている範囲が目視できるようになるので、確実に取り除けるのです。その仕組みは、5-アミノレブリン酸という、健康食品としても販売されているアミノ酸を患者さんに飲んでもらい、青色の光線を当てるというものです。アミノ酸は細胞中のミトコンドリア内でプロトポルフィリンナインという物質に変わるのですが、この物質が青い光線を当てると赤く光ります。ほとんどのがん細胞はこれをため込む性質があるので、発見できるのです。
尿検査でがんを見つける研究も
組織の表面に生える苔タイプのがんには、夏の太陽程度の光線を当てることで、がん細胞自体の仕組みによって自然死(アポトーシス)させることも可能です。光線力学によるがん治療の研究が進めば、多くのがんに応用できるでしょう。
また、プロトポルフィリンナインについては、正常な細胞ではため込まれずにヘムタンパク質などを作って体のエネルギー源となります。体内にがんがあると、プロトポルフィリンナインが飽和状態になって、その前段階の物質が尿へ排出されます。この作用を利用して、まずがんがあるかどうかを検査する方法としても研究されています。
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先生情報 / 大学情報
高知大学 医学部 泌尿器科学講座/光線医療センター 教授 井上 啓史 先生
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