講義No.11129 医学

光を使った体に優しい技術で、がんを可視化する

光を使った体に優しい技術で、がんを可視化する

がん手術における課題「取り残し」

がんの摘出手術における「取り残し」は、長年の課題でした。がん治療に手術を選択した場合、組織によってはがんを完全に取り除くのが難しいので、組織ごと切除する方法がとられます。しかしこれは患者さんの健康に影響します。がんには組織の表面に突起した根の浅いものだけでなく、組織内部にもできる根の深いがん、あるいは表面に苔のように生えるがんもあります。つまり、がんには、見えるタイプと見えないタイプがあるのです。例えば膀胱がんのように尿管や膀胱の中にできるがんは、内視鏡でも確実に削り取れないことから、再発のリスクが大きいとされます。

光線を当て、がん化した細胞を光らせる

がん手術の際に、光線力学診断という方法を使って青い光を当てると、がん細胞が赤く光ります。がんのできている範囲が目視できるようになるので、確実に取り除けるのです。その仕組みは、5-アミノレブリン酸という、健康食品としても販売されているアミノ酸を患者さんに飲んでもらい、青色の光線を当てるというものです。アミノ酸は細胞中のミトコンドリア内でプロトポルフィリンナインという物質に変わるのですが、この物質が青い光線を当てると赤く光ります。ほとんどのがん細胞はこれをため込む性質があるので、発見できるのです。

尿検査でがんを見つける研究も

組織の表面に生える苔タイプのがんには、夏の太陽程度の光線を当てることで、がん細胞自体の仕組みによって自然死(アポトーシス)させることも可能です。光線力学によるがん治療の研究が進めば、多くのがんに応用できるでしょう。
また、プロトポルフィリンナインについては、正常な細胞ではため込まれずにヘムタンパク質などを作って体のエネルギー源となります。体内にがんがあると、プロトポルフィリンナインが飽和状態になって、その前段階の物質が尿へ排出されます。この作用を利用して、まずがんがあるかどうかを検査する方法としても研究されています。

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先生情報 / 大学情報

高知大学 医学部 泌尿器科学講座/光線医療センター 教授 井上 啓史 先生

高知大学 医学部 泌尿器科学講座/光線医療センター 教授 井上 啓史 先生

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医学、光線力学

先生が目指すSDGs

メッセージ

医師として、光線力学診断の研究者として、医師として、さらには人間として言えることがあります。それは、一人では何もできないということです。なぜ私が楽しく研究できているかというと、仲間がいてくれるからです。高校生のあなたには、仲間と上手に付き合うコミュニケーション能力を磨いてもらいたいです。苦手な人でもコミュニケーションを続けていけば、いつの間にか付き合い方が身についていきます。
高知大学医学部では全国に先駆けた光線医療センターもあり、何年も続けて面白い研究ができます。ぜひ一緒に学びましょう。

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高知大学は、四国山地から南海トラフに至るまでの地球環境を眼下に収め「地域から世界へ、世界から地域へ」を標語に、現場主義の精神に立脚し、地域との協働を基盤とした、人と環境が調和のとれた安全・安心で持続可能な社会の構築を志向する総合大学として教育研究活動を展開しています。
教養教育、専門教育、正課外教育やインターンシップを通じ「表現力」「プレゼンテーション能力」「コミュニケーション能力」「異文化理解能力」「情報活用能力」の5つの能力で社会の力になる21世紀の知識創造社会で活躍できる人材を輩出します。