強い「がん幹細胞」を倒すための医科学研究者の戦い
忍者のように隠れるがん幹細胞
がん細胞には親玉となるがん幹細胞があり、いくら体内のがん細胞を減らしてもがん幹細胞が残ったままでは転移や再発が起こり得ます。がん幹細胞はがん細胞の集団の中で忍者のように隠れていて、なかなか見分けることができません。それどころか、がん幹細胞とみなされていたものが普通のがん細胞に変化することや、逆に普通のがん細胞ががん幹細胞になることもあります。したがってがんを倒すには、がん幹細胞になる可能性のあるがん細胞も一緒に倒す必要があるのです。
薬剤抵抗性の強いがん幹細胞
どんな細胞も自らに害をなすものを排除する性質を持っています。がん幹細胞はその排除する力が非常に強く、普通のがん細胞よりも抗がん剤などの薬を排除してしまいます。言い換えれば、「薬剤抵抗性の強い細胞=がん幹細胞」だと判断することもできます。
そのため、抗がん剤の効き目をテストするにはまず、そのがん幹細胞を培養し、実験する機会を増やさなければなりません。例えばiPS細胞を使ってがん幹細胞を作成する方法がありますが、まだ効率が悪く、特殊なウイルスを使わなければならないという問題も抱えています。そこでがん細胞に特定の遺伝子を組み込み、がん幹細胞へと作り変える方法が試されています。
副作用の起こりにくい「核酸医薬」
さらに、がん幹細胞を培養することなく、新たな抗がん剤を作ることも模索されています。この方法は特定の遺伝子を潰すことで、がん幹細胞を死に至らしめようというものです。がん細胞は正常の細胞と遺伝子の作りが違うため、その違う部分のみをターゲットにすれば、がん細胞の機能だけを停止させることができます。遺伝情報をつかさどる核酸を使うことから、これらの薬は「核酸医薬」と呼ばれています。
膨大な数の遺伝子の中から潰す部分を探すのは大変な作業ですが、見つかってしまえば抗がん剤の作成自体は簡単です。また核酸自体はもともと人体にあるため、有機化合物に比べて副作用が起こりにくいというメリットがあるのです。
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先生情報 / 大学情報
成蹊大学 理工学部 理工学科 教授 久富 寿 先生
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