なぜアオムシはキャベツを食べて、レタスを食べないの?
キャベツの辛味成分を好んで食べるアオムシ
モンシロチョウの幼虫であるアオムシは、キャベツの葉を食べますが、見た目が似たレタスなどは一切食べません。これは、キャベツには「シニグリン」という辛味成分が含まれており、アオムシはこの成分を好んで食べるためです。刺激の強い辛味成分は、人間を含む多くの生物にとって苦手な成分なのですが、アオムシはほかの生物が食べないものをあえて食べることで、生存競争を生き抜いてきたのです。
この植物と虫の関係のように、生物同士の間で起こる現象の要因には何があるのかを化学的に分析し、さらに生態系との関係を探っていく学問を「化学生態学」といいます。
スイートピーの毒を増やして、害虫から守る
昆虫が好む成分もあれば、嫌う成分もあります。例えば、スイートピーは弱い毒を持つ植物です。観賞用植物の多くは毒を含んでいますが、スイートピーの毒は少量なのでそのままでは害虫に食べられてしまいます。ところが研究によって、「ジャスモン酸」というホルモン物質を吹き付けると、スイートピーの毒の成分が増え、害虫への抵抗性を高めることができることが分かりました。
ピーマンのフラボノイドが骨粗しょう症を防ぐ
ピーマンは害虫に強い野菜です。ピーマンはトウガラシの一品種で、トウガラシのような辛い植物は害虫にも強いですが、辛くないピーマンも害虫に抵抗性を持っています。実は、ピーマンはルテオリンというフラボノイド(植物の色素成分)の一種を多量に含んでおり、それが害虫から身を守っているのです。このような植物が持つ天然の防御機能を解明することで、安全な農薬などの開発につながる可能性があります。
さらに、ルテオリンには人の「破骨細胞」という骨を破壊する細胞を抑制する効果もあります。ルテオリンを含む健康食品ができれば、破骨細胞が過剰に働くことによる骨粗しょう症を予防できるかもしれません。このように、化学生態学による研究成果は、さまざまな分野へ応用することができるのです。
参考資料
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高知大学 農林海洋科学部 農林資源環境科学科 教授 手林 慎一 先生
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