フランスの庭園に秘められた数々の工夫とは?
庭に表れる自然への価値観
世界にはさまざまな庭園様式があり、その地の人たちの自然に対する価値観が表れています。例えば日本は木の傾きや曲がった部分などの姿を大事にした風景式、フランスは直線や円などの幾何学的な模様を植物の緑で表現した整形式庭園が主流です。日本人からすれば人工的に樹木の形を整えたものは自然ではないと思うかもしれませんが、フランス人は整った理想的な形を自然だとみなしています。一方でフランスでは環境への配慮も重視しており、殺虫剤などを使わずに植物を管理している庭もあります。作業量は膨大になりますが、機械化や効率化によって管理体制を維持しているのです。
ヴェルサイユ庭園と視覚のトリック
庭はお金のかかるぜいたくなものなので、かつては権力や経済力の象徴でもありました。その代表例が17世紀にルイ14世が作らせたヴェルサイユ宮殿の庭園です。造園家のル・ノートルが手がけており、現代にも生かせる技術が数多く含まれています。例えば、視覚による錯覚「錯視」などの視覚効果です。ヴェルサイユ庭園には、下り坂が続くと傾斜が緩やかになったとき上り坂のように見える「縦断勾配錯視」のような視覚効果が意識的に使われています。
地形を生かした造園
現代では地形に不都合があれば機械で整形できますが、17世紀頃は容易ではありませんでした。そこで地形を生かした造園も行われたのです。ル・ノートルが手がけたヴォー・ル・ヴィコント城の庭園を測量すると、異なる傾斜の土地が連なっていることがわかります。整形式庭園では通常、人の視点が収束する点が1つになるよう設計されています。しかし傾斜が異なる地形では、収束点をひとつにすると景観が美しくならない可能性がありました。そこでル・ノートルは2つの収束点を作ろうと計画し、城から庭に向かううちに収束点が下から上に動き、未来へ飛翔するかのような感覚が生まれるようにしたのです。このように整形式庭園には、庭を歩く人の無意識に訴えかける工夫が詰まっています。
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南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授 平岡 直樹 先生
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