食品中の微生物を効率的かつ完全に殺菌し、食品の安全を守る
食の安全のために不可欠な技術
食品の安全にとって不可欠なのが、殺菌です。食品中の微生物で問題になるのは、大きく分けて2つあり、1つは食中毒などの人的危害を引き起こすもの、もう1つは、人的危害は起こさないが食品を腐らせるものです。この2種類の微生物を効率よく、しかも、できるだけ食品の質を落とさずに完全に殺菌することが必要です。その技術の研究・開発が、食品企業や大学、研究機関などでさまざまに取り組まれています。
加熱だけでは死滅しない微生物も
食品中の微生物の多くは、製造過程の加熱によって死滅させることができます。しかし、胞子を作って加熱を乗り切り発芽する微生物もおり、中には120度で数百分というレベルの加熱でないと死滅しない種類もいます。そんなに高温・長時間の加熱をすれば、食品の質は大幅に損なわれ、もはや売り物にならなくなります。つまり、加熱だけの殺菌では限界があるのです。
そこで考えられたのが、加熱と添加物との合わせ技です。グリシン、酢酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ナイシンやその混合物といった制菌・抗菌作用のある物質を、加熱と組み合わせることで、微生物を制御し殺菌する方法です。どの添加物を、どのくらいの量で、どのように添加すると最も効率的に殺菌できるのかについて、緻密な実験と研究が行われています。
SDGsにも貢献する
こうした研究は、食品の安全性を向上させるだけでなく、SDGsにも貢献します。食品を腐らせる微生物をより制御できるようになれば、食品の賞味期限を延ばすことができ、食品ロスを抑えられるからです。流通コストや保存コストが節約できることも朗報です。
また、現在、常温の食品は25~35度の温度帯での流通・保存が想定されていますが、地球温暖化の進行によって、夏には40度を超える日も珍しくなくなり、現在の常温の基準が通用しなくなっています。こうした変化に対応するための食品安全技術の研究も始まっているのです。
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先生情報 / 大学情報
南九州大学 健康栄養学部 食品開発科学科 教授 長田 隆 先生
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食品安全学、微生物学先生が目指すSDGs
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