チョウは植物をどう見分ける? 化学の言葉「セミオケミカル」の謎

チョウは植物をどう見分ける? 化学の言葉「セミオケミカル」の謎

昆虫や植物は化学の言葉を使う?

昆虫や植物は言葉の代わりに、「セミオケミカル」という化学物質を放出してコミュニケーションをとっています。セミオケミカルには2種類あり、同種にメッセージを伝えるものがフェロモン、異種にメッセージを伝えるものがアレロケミカルです。植物のアレロケミカルはチョウの産卵にも影響を与えています。

チョウの産卵を左右するアレロケミカル

チョウは種類ごとに特定の植物しか餌にできないため、母チョウは産卵前に前足の味覚器で葉に含まれる化学物質の味を調べ、幼虫が食べることのできる葉かどうかを判断します。例えばキタキチョウは、ネムノキなどのマメ科植物に産卵します。実験では、植物から抽出した化学物質をプラスチックの葉に塗り、チョウの産卵反応を調べます。するとピニトールという中性の化学物質が酸性や塩基性の化学物質に混ざったとき、産卵を強く刺激することが明らかになりました。しかし、キタキチョウは同じくピニトールを持つシロツメクサには産卵しません。シロツメクサにはリナマリンという有毒物質が含まれており、産卵を阻害するからです。一方で毒への抵抗力を持つモンキチョウはリナマリンを産卵刺激物質とし、ライバルが利用しない植物に産卵することで生き延びてきました。

環境にやさしい農業への利用

キタキチョウの産卵刺激物質であるピニトールは、マメ科植物の生理調節物質(オスモライト)で、乾燥などのストレスに抵抗しているときに作られます。高濃度のオスモライトがあるとチョウの産卵率が下がることから、母チョウは植物の健康状態を見極め、ストレスの少ない個体に産卵していると考えられます。この性質を利用し、与える水の量を減らして植物がオスモライトを多く出すような栽培方法が実現すれば、作物の昆虫による被害を防げます。
このように特定の生き物のみに対して少量で効果を発揮するセミオケミカルは、もともと自然界に存在する化学物質なので、環境にやさしく、農薬の代わりとしても注目されています。

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広島大学 生物生産学部 分子農学生命科学プログラム 准教授 大村 尚 先生

広島大学 生物生産学部 分子農学生命科学プログラム 准教授 大村 尚 先生

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昆虫科学、農学

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メッセージ

学問の世界には意外なつながりがあります。例えば化学物質と生物の相互作用です。私も研究を始めた当初は、植物のストレス物質がチョウの産卵を左右しているとは思ってもみませんでした。将来的に意外なつながりを見出せる学問や人との出会いは数多く存在するので、視野を広く持ち興味のあることを深く突き詰めていってほしいです。
また、昆虫は生き残るためにさまざまな手段で最適なパートナーを見つけ、多様化してきました。こうした仕組みをおもしろいと感じたら、ぜひ昆虫科学に関心を持ってみてください。

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