目に見えない価値を音で読み解く
音の認識から見る人間と環境の関係
音は、そこにあるだけではただの物理現象ですが、人間が聞くことで「気持ちいい」とか「うるさい」という意味が生まれます。従来、音は音楽または騒音という枠組みでしか研究されませんでした。つまり、より楽しい音の響きを求め、あるいは不快な音をなくすという研究が中心でした。それらを超えて、環境の中であるべき音をうまく調節することをめざす学問が「サウンドスケープ」です。
単に「街中で心地いい音が聞こえるようにする」研究ではなく、音をコントロールする工学的技術や人間との関わりを調べる手法を組み合わせ、建築学、音楽、心理学、社会学などを包括する学際的な研究分野となっています。
「忘れられた意図」を読み解くサウンドスケープ
例えば、金沢には有名な兼六園という庭園がありますが、そこに人々が価値を認めているから今日まで存在しているわけです。しかし、庭園の技術がどのような意図で生み出されたのかは、職人たちの中で伝えられる「暗黙知」であり、現代の我々は忘れてしまっています。その庭園の設計者は何を意図していたのかを、季節や時間帯における音の変化や建物と音の関係を数値に置き換えて目に見える形にすることで、忘れられた意味をもう一度取り戻そうというのもサウンドスケープが担う重要な側面です。
作法や振る舞いに込められた意味
また茶道では、作法という形式知が重んじられます。そこには本来込められた意味があったはずです。例えば茶道には「三音」という考え方があります。流派によって何を取り上げるかは異なりますが、いずれも音に着目することで、居心地の良い空間を作り上げ、また主人の行為を際立たせるねらいがあると考えられます。主人と客人の言語に頼らないコミュニケーションを成立させる仕組みが、それらを分析することでひもとけるでしょう。
こういった一種特別な空間の研究が、私たちの身近な環境をとらえ直し、見落としがちな点を改善していく手立てともなるのです。
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先生情報 / 大学情報
金沢工業大学 建築学部 建築学科 ※2025年4月開設 教授 土田 義郎 先生
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