木質を化学する 樹木から学び、新たな素材の創製へ

木質を化学する 樹木から学び、新たな素材の創製へ

樹木活用のカギは細胞壁の理解にあり

近年ますます注目の集まる生物由来の再生可能資源、バイオマス。その90%を占めるのが、主に樹木である木質系バイオマスであり、持続可能社会の実現に欠かせない素材です。
木材として利用されているものは主に樹木内側の【木部】と呼ばれる部分で、これは細胞死によって残された細胞壁です。この細胞壁は非常に複雑な高分子複合材料になっています。樹木の種類や、育ち方、あるいは幹・枝・根・葉といった組織ごとにその性質は違っており、それぞれの場所に必要な機能・物性を兼ね備えています。木質系バイオマスのポテンシャルを最大限に活用するためには、この細胞壁をもっと詳しく知る必要があります。

細胞壁を木化させるリグニン

植物は細胞壁の化学構造を巧みにあやつることで、用途に応じて様々な機能・物性を実現していると考えられています。細胞壁の主な高分子成分は多糖類と芳香族化合物(リグニン)です。
多糖類の骨格にリグニンが沈着する現象を【木化】と呼びます。リグニンは細胞壁に疎水性・強度・紫外線耐性・抗生分解性などを与え、細胞壁を【木部】たらしめている成分です。しかし、防御物質でもあるリグニンを、強固に一体化した細胞壁から取り出すことは簡単ではありません。そのため化学分析は難しく、燃料以外としての利用も難しいのが現状です。

植物細胞壁の構造-機能相関から新たな発想へ

細胞壁の柔軟な機能・物性はどのような化学構造で実現されているのか、その具体的な【構造-機能相関】の全容はよくわかっていません。完成した細胞壁の分析だけでなく、それをどうやって作っているのか、という過程の調査も必要です。マイクロ・ナノメートルの世界で細胞壁が作られる過程を見るために、イメージング化学分析法の開発が進められています。
細胞壁の構造-機能相関の解明は、バイオマスのさらなる活用のみならず、高度な複合材料を設計する新たな発想にもつながります。樹木から学び、新たな素材の創製へとつなげることが、持続可能社会の実現に必要です。

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先生情報 / 大学情報

名古屋大学 農学部 生物環境科学科 森林化学研究室 准教授 青木 弾 先生

名古屋大学 農学部 生物環境科学科 森林化学研究室 准教授 青木 弾 先生

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木質科学、天然高分子化学、分析化学

メッセージ

我々が何かを考えるには材料が必要で、知らないこと同士の掛け合わせは発想できません。ある単語の意味を調べるだけなら、検索すればわかるでしょう。しかしその先、一言では言い表せないものの組み合わせになったとき、どんな材料が頭の中にあるのかで、思いつく幅に大きな差ができます。
学問分野は材料の多様性そのものです。嫌い・触れたくないになってしまったとき、その材料からの発想を捨てることになります。「得意じゃないけど必要なら」という姿勢があなたの発想を豊かにします。せっかくだから、捨てずに取っておきましょう。

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。