臓器を売買していいの? 「当たり前」を問い直す法哲学
臓器や血液などの売買は認められるべきか?
法哲学とは、その名の通り法律を哲学する学問のことで、「なぜ法律を守らなければならないのか」「今の法律は本当に正しいのか」といったことを考えます。
「体の一部を売ることの是非」について考えてみましょう。近年では、技術的には自分の体の一部である臓器や精子、卵子、血液などを他人に提供することが可能となりました。では、こうした体の一部を、車やパソコンなどの所有物と同様に、自分の意思で他人に売ることは問題ないのでしょうか?
お金が発生するかどうかで是非は分かれる
現在、臓器など体の一部の「売買」は、多くの人が感覚的によくないと感じています。法律でも禁止されています。一方で、脳死での臓器提供や献血のような、無償での提供はさまざまな条件のもとで認められており、抵抗がない人も多いでしょう。体の一部の売買がよくないと考えられている理由の1つに、格差の問題が挙げられます。多くの場合、体を切り売りするのは生活に困った貧しい人、一方で買い手はある程度裕福な人となることが考えられます。つまり「体の売買は貧困層からの搾取につながるため、よくない」という意見です。しかし、所得制限を設けて、一定所得以上の人ならばよいとする、と考えても、やはり多くの人は違和感を持つのではないでしょうか。
まずは違和感を「問い」にするのが法哲学
この問題の本質は、「体は経済的な対価を得るものではない」という意識を多くの人が持っていることにあります。人の体の扱いについて、なぜこういう意識を持つのか、まだ明確な答えは出ていません。もしかすると、こうした感覚は現代特有のもので、将来的には抵抗なく体の一部が売買される時代がくるかもしれません。こうした問いかけやそれに対する答えを言語化していくのが法哲学です。まずは問いが明確になるだけでも、みんなが考えるべき問題を提示できたという意味で一歩前進です。その上で答えを模索し、よりよい社会のためにはどんな法律が必要かを考えていくのです。
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愛知学院大学 法学部 現代社会法学科 教授 鈴木 慎太郎 先生
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