植物が「集団」を維持できる理由を、生態系全体の観点から研究する
雌雄がそろわないと子孫が残せない植物
中学校の理科で、植物の分類や花の構造について学ぶ際には、理解しやすいように、1つの花の中に雄しべと雌しべがある植物が題材に選ばれています。しかし、植物の中には例えばイチョウなどのような、1つの株がオスあるいはメスの生殖機能しか持たない「雌雄異株」の種類もあります。1株の中に雌雄両性を持っていれば、単独でも種子を作ることができるのに対し、雌雄異株は雄株と雌株がそろわなければ種子を作れません。集団を広げる際も、種子を作る雌株だけしか「基点」になれないので、生存戦略的に見ると非常に不利なのです。
不利なのに存在している理由は?
不利な条件なのに、多種多様な雌雄異株植物が世界中に存在するのはなぜでしょうか。これは、進化論で知られるダーウィンも注目した難問の1つで、「雌雄異株植物は『近交弱勢』が発生しにくいので絶滅しにくい」とする仮説を立てました。「近交弱勢」とは、雌雄両性植物が自家受粉したり近親交配したりすることで、生存に不利な遺伝子をホモ接合で持つ個体が増えることです。近年、樹木のDNAを調査する手法が生態学の研究に用いられるようになったことで、この説の具体的な証拠が得られるようになりました。
食物連鎖や生態系まで保護するために
雌株しか集団を広げる基点になれないという弱点については、「鳥に食べられやすい実をつけることで、より遠くに子孫を広げられる」という説があります。ただ、雌雄両性植物の中にも鳥が好んで食べる実をつけるものがあるため、この説を裏付ける証拠を得るためには、鳥の食性や活動範囲まで含めた調査が必要です。
このように生態学には、すぐに結論が出せないテーマが数多くありますが、世界的課題である環境保護を推進するためには、生態学の知見が必要不可欠です。森林の保護・再生ひとつをとっても、単に個体を増やすだけではなく、あらゆる動植物との関わりを考えながら対策を立てなければ、食物連鎖や生態系まで含めた保護は実現しないからです。
参考資料
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大阪公立大学 理学部 生物学科 教授 名波 哲 先生
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