講義No.11393 法学 環境学

若い世代にこそ考えてほしい、海と付き合っていくための法律の重要性

若い世代にこそ考えてほしい、海と付き合っていくための法律の重要性

日本には「省庁ごと」に異なる海がある?

日本には、海岸線の地図が何種類もあります。異なる省庁が担当業務に合わせて、異なる法律に基づく個別の地図を管理・活用しているからです。とは言え、海は1つですから、縦割りの行政管理ではどこかにしわ寄せがきます。
例えば、高知県の室戸(むろと)岬・足摺(あしずり)岬にそれぞれ国定公園・国立公園があり、環境省が管理する「自然公園法」という法律で守られています。しかし、公園の近隣で護岸工事などが必要になった場合、業務の管轄は国土交通省なので、「工事の影響で潮の流れが変化して生態系に悪影響を与える」といった、環境省が懸念すべき案件に、自然公園法はほぼ適用されないのが実情なのです。

「海を守りたい」と思う気持ちの法的権利は?

海岸の埋め立てなどをめぐり、地域住民が工事差し止めを求める訴訟を起こす事例が各地で見られます。漁業組合などが原告であれば、訴えは「漁業法」によってある程度まで聞き入れられますが、住民だけの場合、訴えが退けられるケースがほとんどです。「行政事件訴訟法」という法律によって、裁判に関わることができる人が制限されているからです。地域住民の「海を壊されたくない」という思いに対しては、何の権利も認められていないというわけです。

独立した、海の未来を考える機関を

海に囲まれた日本では、防災、まちづくりなどさまざまな目的で、沿岸部の埋め立てや開発が行われています。必要な開発は行いながら海の環境を継続的に守るためには、省庁の壁や各種の利権を取り払った、「海の将来のための法律」が必要です。
アメリカ・カリフォルニア州の場合、「沿岸委員会」という組織があり、沿岸部の土地利用や観光開発などに関する活動を全面的に管理・規制しています。日本でも福島原発事故の反省から、独立した規制機関として「原子力規制委員会」が設立されましたが、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から海の開発と環境保護を両立させるためには、同様の第三者機関が必要なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

高知大学 人文社会科学部 社会科学コース 准教授 赤間 聡 先生

高知大学 人文社会科学部 社会科学コース 准教授 赤間 聡 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

環境法学、海洋学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私たちの生活は、さまざまな面で海と関わっています。大学で海に関わる勉強をしたいと考えているなら、まず「海のあれこれを知ること」から始めましょう。海水浴でも釣りでも、海岸の散策でも、「海のことを知ろう」という思いを持っていれば、海の生態系や陸と海との関係、釣りに行く場所と釣れる魚の相関関係、海周辺の風景の変化など、得られる情報は多岐にわたると思います。
特に、海に関する法律を学び、自身の将来に生かすには、海に関する肌感覚の知識を、若い感性で大いに吸収しておくことが大切です。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

高知大学に関心を持ったあなたは

高知大学は、四国山地から南海トラフに至るまでの地球環境を眼下に収め「地域から世界へ、世界から地域へ」を標語に、現場主義の精神に立脚し、地域との協働を基盤とした、人と環境が調和のとれた安全・安心で持続可能な社会の構築を志向する総合大学として教育研究活動を展開しています。
教養教育、専門教育、正課外教育やインターンシップを通じ「表現力」「プレゼンテーション能力」「コミュニケーション能力」「異文化理解能力」「情報活用能力」の5つの能力で社会の力になる21世紀の知識創造社会で活躍できる人材を輩出します。