若い世代にこそ考えてほしい、海と付き合っていくための法律の重要性
日本には「省庁ごと」に異なる海がある?
日本には、海岸線の地図が何種類もあります。異なる省庁が担当業務に合わせて、異なる法律に基づく個別の地図を管理・活用しているからです。とは言え、海は1つですから、縦割りの行政管理ではどこかにしわ寄せがきます。
例えば、高知県の室戸(むろと)岬・足摺(あしずり)岬にそれぞれ国定公園・国立公園があり、環境省が管理する「自然公園法」という法律で守られています。しかし、公園の近隣で護岸工事などが必要になった場合、業務の管轄は国土交通省なので、「工事の影響で潮の流れが変化して生態系に悪影響を与える」といった、環境省が懸念すべき案件に、自然公園法はほぼ適用されないのが実情なのです。
「海を守りたい」と思う気持ちの法的権利は?
海岸の埋め立てなどをめぐり、地域住民が工事差し止めを求める訴訟を起こす事例が各地で見られます。漁業組合などが原告であれば、訴えは「漁業法」によってある程度まで聞き入れられますが、住民だけの場合、訴えが退けられるケースがほとんどです。「行政事件訴訟法」という法律によって、裁判に関わることができる人が制限されているからです。地域住民の「海を壊されたくない」という思いに対しては、何の権利も認められていないというわけです。
独立した、海の未来を考える機関を
海に囲まれた日本では、防災、まちづくりなどさまざまな目的で、沿岸部の埋め立てや開発が行われています。必要な開発は行いながら海の環境を継続的に守るためには、省庁の壁や各種の利権を取り払った、「海の将来のための法律」が必要です。
アメリカ・カリフォルニア州の場合、「沿岸委員会」という組織があり、沿岸部の土地利用や観光開発などに関する活動を全面的に管理・規制しています。日本でも福島原発事故の反省から、独立した規制機関として「原子力規制委員会」が設立されましたが、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から海の開発と環境保護を両立させるためには、同様の第三者機関が必要なのです。
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高知大学 人文社会科学部 社会科学コース 准教授 赤間 聡 先生
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環境法学、海洋学先生が目指すSDGs
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