独占禁止法が認める独占と認めない独占
勘違いされがちな独占禁止法
独占禁止法という法律は、その名前から「独占を禁止する」法律のように聞こえます。しかし実際には、独占禁止法は競争を保護する法律です。そして、独占禁止法は全ての独占を禁止するのではなく、「不当な手段によって」独占を獲得したり、維持したりする行為を禁止しています。よい商品が消費者の支持を受けた結果、独占に至る場合まで禁止してしまうことは、競争そのものを否定することになるからです。
規格の標準化と標準必須特許
私たちの生活に欠かせないスマートフォンを例に考えてみましょう。特許は本来は特許権者のみが使えるのですが、規格が関係する場合は別です。さまざまな業者がスマートフォンを作っていますが、互いに異なる規格で作られてしまうと、電話や通信ができずに困ることになります。こうした事態が起こらないように、あらかじめ開発の段階で規格を標準化します。その際、標準規格に基づくスマートフォンを製造するために必要な特許(標準必須特許)については、みんなが一定の条件のもとで利用できるように調整します。ところが、後出しで特許権者が標準必須特許を使わせないと言い出すケースがあり、独占禁止法に違反するのではないかと世界各地で裁判が起きています。
アメリカではどのように考えられているか
法学の分野では、外国の事例を調査して日本の参考とする「比較法研究」が行われます。アメリカでどのように考えられているかを見てみましょう。後出しで特許を使わせないのは不当な手段による独占の形成のように見えますが、アメリカでは、独占禁止法違反ではないとの判断が出されています。その理由の一つとして、アメリカでは独占禁止法違反には懲罰的な損害賠償が認められてしまうことが挙げられます。むやみに独占禁止法違反とすると、ハイテク産業が懲罰的な損害賠償に萎縮してしまい、むしろ競争が減退するとの懸念が根強いのです。
他国の知見を日本社会に取り入れていく場合、このような国による法制度や文化の違いを踏まえる必要があるのです。
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