友だちに貸したものを勝手に取り返したら法律違反になる?
民法は世間一般の感覚とずれている?
民法は、生活に関するさまざまな権利義務関係を規定した法律です。例えば、ものの貸し借りにおいて、どのような権利や義務が生じるかについても規定されています。しかし、民法はさまざまな立場の人の利益や事情を考えて作られているので、法律を学んだことのない人にとっては感覚的に理解しにくい部分もあります。
例えば、次のようなケースです。Aさんが、友だちのBさんに自転車を貸しました。しかし、Bさんはいつまでたってもそれを返してくれません。そこで、AさんはBさんが留守の間に、Bさんに無断で自分の自転車を持って帰りました。Aさんのこの行動は、法的に許されるでしょうか?
借りたものを返さなくても借りた側が保護される?
一般的な感覚では、Aさんは自分のものを取り返しただけなので許されるように思えます。しかし、民法を含めた日本の現在の法律は、Aさんの行為を基本的には許していません。
民法では、たとえ他人のものであっても、それを今持っている(法律的には占有している)という事実がまず保護されます。ですから、Aさんが自転車を返してほしい場合は、自転車の所有権か、もしくは貸し借りの契約に基づいて、Bさんに返却を請求する必要があります。それでもBさんが返してくれない場合は、裁判所に訴えるという手段をとらなくてはなりません。いずれにせよ、Bさんに無断で自転車を取り返すような実力行使、言い換えれば自力救済は、法的に認められていないのです。
自分のものを勝手に取り返せない理由とは
これは、自分の所有物だからといってこれを実力行使で取り返すことを法律が認めてしまうと、例えば力のある人だけに有利な社会になったり、社会に暴力が蔓延(まんえん)したりする恐れがあるからです。そうした無秩序な社会を招かないために、民法では自力救済が原則的に禁止されています。日常的な感覚では理不尽に思えるルールでも、このようにさまざまな事情や利害関係を考慮して、法律は作られているのです。
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先生情報 / 大学情報
國學院大學 法学部 法律学科 講師 川村 尚子 先生
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