法律を通じて市場経済のダイナミックな動きにふれる
公正な市場を実現する金融商品取引法
「金融商品取引法」は、上場企業の情報開示のルールを定めて、企業の粉飾決算やインサイダー取引、相場操縦といった不公正な金融取引を規制する法律です。これは戦後にアメリカの指導のもとで作られた法律ですが、その市場の巨大さもあり、今もアメリカの影響を強く受けています。法学の世界では、外国の法律や裁判例を調査して日本と対比させる「比較法学」と呼ばれる手法がよく用いられています。アメリカの法制度のもとでの判例を研究することで、日本の法律が抱えている問題を解決する糸口を見つけていきます。
アメリカにみる損害賠償責任のルール
企業が粉飾決算をするなどの虚偽記載を行い、株式を購入した投資家が損害を受けた場合、株式を発行している会社は損害賠償責任を負います。これまで日本では、故意であろうと不注意であろうと、虚偽記載をした事実があれば損害賠償責任を負うというルールを採用してきました。それに対してアメリカでは、たとえば会社の経営者などの役員が主導して虚偽記載を行った場合にのみ、会社の責任を認める判例法が形成されています。アメリカの判例から得られた示唆を参考に、日本でもどの範囲で企業が責任を負うのか、考え直していく必要があります。
実社会の動向を反映する法律
金融取引法はもともと証券取引法という法律で、伝統的な証券を中心に規制を行っていました。その後、金融商品や投資商品が多様化して株式以外の投資商品も視野に入れる必要が生じたため、2006年に金融商品取引法として改正されました。このように、法律は企業活動や市場の動きなど、実社会の動向を反映して変化していくのです。
投資家は上場企業が提供する情報をもとに、株式の売買の判断を行います。この情報開示が適切に行われないと投資家は安心して取引ができず、取引が行われないと企業も株式の発行による資金調達ができなくなってしまいます。投資家の保護のためにも、健全な市場経済のためにも、情報開示が適切に行われる法制度の整備・運用は重要なのです。
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先生情報 / 大学情報
岩手県立大学 総合政策学部 講師 伊藤 浩紀 先生
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