認知の不思議 「重い」のに「軽い」感覚で、続けられるかも?

認知の不思議 「重い」のに「軽い」感覚で、続けられるかも?

VRだからわかること

人間は色や形などの感覚的情報から、距離感や物体の重さなどを予測して行動しています。例えば、物体を持ち上げたときに、その物体の重さが事前の予測以上なら「重い」と感じて、予測以下なら「軽い」と感じます。VR(バーチャルリアリティ)空間内には実際の肉体はなく感覚のみが存在するので、こうしたことについて実験するのに適しています。

音で重さの感じ方は変わるのか?

重さと音の感じ方の関連を検証する、VR空間を活用した実験例があります。ここではVRと現実の動きを連携させて、現実でコントローラーを肩の高さまで水平に持ち上げるとVR空間内のダンベルも持ち上がり、ボタンを押すとVR空間のダンベルは落下して床に衝突します。このとき、最初に基準となる実際のダンベルと床の衝突音が鳴ります。2回目はランダムで衝突音が金属音や木製品の音などに入れ替わります。被験者には基準となる衝突音と2回目の衝突音を聞き比べてもらい、基準より「重い」と感じたか「軽い」と感じたか確認します。これは「ME法」という心理物理学の測定法で、実際の重さは変わらなくても、被験者は衝突音が低音や小音量だと重いと感じて、高音や大音量ならば軽いと感じることがわかりました。これは音の種類が事前の予想とズレることで生じる錯覚効果です。

現実の医療への応用へ

こうした研究は、リハビリテーションなど医療分野への応用が考えられます。例えば、リハビリテーションを受ける患者がトレーニングする際に、リハビリテーション器具の重量を軽く感じさせるような効果音をつければ心理的な負担が軽減されてより前向きに取り組む効果が期待できます。一方で、実際より重く感じる効果音にすれば、筋肉の緊張を促して少ない回数でも十分な刺激を得られるかもしれません。
リハビリテーションの現場では、患者がよく自信を喪失したり、無力さを感じたりすることが課題です。これらの錯覚を使って患者本人の認識に変化を促すことで、回復に重要な自己効力感を得る助けになるはずです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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東海大学 工学部 医工学科 准教授 水谷 賢史 先生

東海大学 工学部 医工学科 准教授 水谷 賢史 先生

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神経科学、生体医工学

メッセージ

医工学は複合的な分野です。その中でも仮想現実(VR)を活用する「ヒューマンコンピュータインタラクション」は、人間工学、脳科学、心理学、情報工学を含む広い視点が求められます。それだけに難しく、またやりがいもある、これから開拓されていく学問領域です。あなたがこの分野に進むなら、同じ分野の仲間との交流や、研究発表の機会を多く持つことをおすすめします。VR空間を活用した研究であっても、現実でのつながりを大切にすることで、医学を支える工学研究の大きなモチベーションになります。

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