文化や主義の違いを超えて、途上国の発展を支える法学の力
法を通した途上国支援
1991年にソビエト連邦(ソ連)が崩壊し、第二次世界大戦以降アメリカとソ連を中心に展開されてきた冷戦が終結しました。それまでソ連の影響下にあった諸国が、社会主義から民主主義へと体制を移行するにあたって、国連や世界銀行、また日本を含む先進国によって多くの援助が行われました。その援助には法制度の整備も含まれています。例えば旧ソ連周辺国では、行政の手続に不透明な点が多く汚職が蔓延していたことから「行政手続法」が整備されました。また、国有企業が解体され、国民が企業を運営する時代になったため、資金の融資を得やすくするための「抵当法」の整備も行われました。
法認識の違い
社会主義から民主主義への移行にともなって浮き彫りになったのが、法律に対する意識の違いです。旧ソ連では「法ニヒリズム」といって、法に対する信頼性が低い点が特徴です。また、例えば日本の「行政法」は、権利を侵害された市民を行政機関が守るための法ですが、「行政法」は悪事を働いた人を罰する、つまり行政が国民を規律するために存在すると考えられている国もあります。更に、国際協力の対象となる途上国では、複数の民族や部族によって構成されている国が多く、「国民」全体を対象とする法律に対する意識も、日本とは大きく異なります。
日本の法学の強み
こうした違いは、その国の歴史や文化が深く関わっているため、援助する立場が正しく、援助を受ける側が間違っているというわけではありません。まずは互いの認識の違いを認めることが、援助の第一歩なのです。そもそも日本は、外国の法律を学び、取り入れることから法学が始まりました。社会体制や文化、考え方の違いがさまざまに見られる途上国への法を通した援助において、大きなアドバンテージを発揮します。このように、法律の専門的な知識や理論を生かしながら、途上国の体制移行やその後の発展を支えことも、法学の大切な役割なのです。
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先生情報 / 大学情報
岩手県立大学 総合政策学部 総合政策学科 法律・行政コース 准教授 桑原 尚子 先生
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