恋愛するのは異性同士って誰が決めた? 映画史から見えてくること

恋愛するのは異性同士って誰が決めた? 映画史から見えてくること

男女の愛が映画のルール?

あなたがこれまで見てきた映画は、男性と女性が恋愛をして、結婚をして、子どもを持つというレールに乗った物語がほとんどでしょう。それは男女の愛こそが自然なもので素晴らしいという社会的な規範を反映していて、「異性愛規範」とも呼ばれています。なぜ映画がそのような規範でつくられたかというと、子どもを増やして国を繁栄させるため、さらに欧米諸国がキリスト教を基にした自国の価値観を輸出するため、などと考えられます。第二次世界大戦後、アメリカの占領政策が行われた日本も、アメリカ映画の影響を大きく受けてきました。

誰がどう見るかで映画の評価は変わる

しかし、1959年、木下惠介監督が同性愛者を描いたと解釈できる映画『惜春鳥』を発表しました。当時、異性愛規範の強い家族ものが多かった日本映画の風潮の中で、木下監督はあえて異性愛規範から距離を置く映画を製作したのです。監督がなぜそのような映画をつくったのか、その意図自体はわかりません。また当時の映画批評家からも高い評価は得られませんでしたが、後年、同性愛者の人たちからは「自分たちの心をよくとらえている」と称賛されました。観客がどのような価値観を持ち、どのような文脈で作品を見るかによって、映画の見え方は違ってくるのです。

映画は規範をつくる政治的な視聴覚装置

その後、1970年代から同性愛者やトランスジェンダーなどの性的マイノリティを扱った映画が海外から少しずつ輸入されるようになりました。並行して8ミリ映画撮影機材やデジタル撮影機材の普及で映画が製作しやすくなり、性的マイノリティ当事者による映画が国内でも次第につくられるようになりました。今でこそ性的マイノリティへの理解は多少進みましたが、映画の歴史を振り返ると、それは決して当たり前ではなかったのです。
私たちが生きていく中で、男らしさや女らしさ、誰を愛するのかという規範が形成・強化・再生産される時に、映画という視覚的な装置がいかに政治的であるかに気づかされるのです。

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金沢大学 人間社会学域 国際学類 准教授 久保 豊 先生

金沢大学 人間社会学域 国際学類 准教授 久保 豊 先生

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映画学、文化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

映画学は、映画の視覚的・聴覚的な要素を読むことで、作者の意図しなかったことすらも導きだすことができる、「読みの快楽」を経験する学問です。照明やカメラワークなど、映画の要素を読み取る力をつけることで、自分が見るものがどのようにつくられ、どのようなメッセージが編み込まれているのかなどを分析できるようになります。
また映画を見たり、本を読んだりすることで、他者を知ることができるので、ぜひあなたもたくさんの映画や本に触れてください。それが自分のアイデンティティや、他者について考える手助けになるはずです。

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金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。