化学反応を利用して生命・知能・身体をつくる
生命とは何か
近年、コンピュータの発達によって人工知能、人工生命、ロボットなどの人工物が現実の生物にどんどん近づいています。しかし、より本物の生物に近づけようとすると、「生命とは何か」という問題の難しさが明らかになってきます。そもそもどんなに人工物を作り込んでも、その人工物が生きているか否かはその人工物にしか知り得ません。そこにこの問題の難しさの根源があります。
従来型の人工知能、人工生命、ロボットの開発手法は、コンピュータのプログラミングによって動作させるのが一般的です。しかしここには「フレーム問題」が生じます。課題を失敗せずクリアするためには、事前に処理範囲(フレーム)を設計者が決めないと動けない、つまり処理範囲が有限だという問題です。AIが自分でプログラムをつくっているわけではないからです。
化学ロボットという視点
私たちの身体をみてみると、コンピュータはなく、その機能を担っているのは物質の化学反応と物理反応です。そこで、ロボットづくりの発想を化学反応にシフトしてみるとどうなるかという研究があります。「化学ロボット」と呼ばれており、BZ反応という代謝をモデルとした化学反応を利用することで、化学反応によって環境からエネルギーを得て、自律的に運動するゲル状物質をつくり出せるのです。このロボットは、自身の化学反応や運動によって周囲の化学物質の濃度が変化することを利用して、自ら判断して行動を変えます。代謝の化学反応とそれにともなう物理反応の運動が、結果として、意志を持つ生物自身の振る舞いにそっくりなのです。こうした基礎研究を応用すれば、さまざまな環境に出て行って自在に働いてくれるロボットが実現するかもしれないのです。
体内の化学反応の情報を利用する
体内の化学反応は電気信号に変換することで身体の外から観測可能です。身体を動かそうと意識した時の筋肉の周りでは、筋電位と呼ばれる電気信号を検出できるので、これを利用して意のままに動かすことのできるロボットハンド(筋電義手)をつくることができます。
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公立はこだて未来大学 システム情報科学部 複雑系知能学科 教授 櫻沢 繁 先生
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