触った感触で方向を示す「触覚矢印」
視覚の矢印
図形の矢印は、方向という情報を視覚で伝えるために使う記号です。進行方向や目的物の場所を示し、マウスのカーソルやダウンロードのアイコンなど、生活の中で多岐にわたって使われています。では、もし視覚が使えないとしたら、どんな方法で方向を伝えられるでしょうか。
滑らかな手触りをたどる
人は、ものを触った感覚からも、さまざまな情報を得ています。一般的には、滑らかな触感からは心地よさを感じ、引っ掛かりのある触感からは不快さを感じます。動物をなでるには毛並みに沿って手を進めるほうが心地よいので、わざわざ逆毛になでる人はほとんどいないでしょう。つまり、触った時に一方向へは滑らかであり、逆方向へは引っ掛かるような形状を作れば、触覚により方向が示せると考えられます。
例えば、紙に連続して円弧の切れ込みを入れて折り上げると、折り上げを戻す方向に手を動かせば滑らかですが、逆側に手を動かそうとすると切れ込みに手が引っ掛かってしまいます。固い材料で作るとしたら、洗濯板のようなギザギザの形状を、導きたい側の傾斜を緩く、逆向き側の傾斜をきつくすれば、方向が示せます。このように触って方向を示すものを「触覚矢印」と呼んでいます。
本能的に理解する
停電した暗がりや、煙で目が開けられないような状況でも、壁に触覚矢印がついていれば手探りで非常口まで誘導できます。そのような場面では、触覚矢印が何かを知らない人でも、触れてすぐに意味を察知し、指示した方向が理解できなければなりません。試作モデルを使って、詳しい説明をせずに触覚矢印に触りながらどちらかに歩いてもらう実験では、参加した25人全員が正しい方向に歩くことができました。
視覚によって情報を伝える場合は、暮らしの中に存在する文字や記号などの共通の約束事に従ってデザインします。それに対して触覚の場合は、心地よいという人間の本能的な感覚にもとづいて考えることで、誰もがすぐにわかるデザインになり得るのです。
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公立はこだて未来大学 システム情報科学部 情報アーキテクチャ学科 教授 安井 重哉 先生
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