アメリカの奴隷制を巡る対立から何が見えるのか?
「多様性」は「分断」の原因にもなりえる?
近年の「トランプ現象」が表すように、現在のアメリカでは「分断」が進んでいるといわれます。しかしこうしたことはアメリカ史上において決して珍しい現象ではありません。例えばその最も極端な例が「南北戦争」です。奴隷制に依存する南部と、そうではない北部という地域的な「多様性」は、19世紀のアメリカに深刻な「分断」を生み出す原因となったのです。
アメリカ社会に影を落とす「人種奴隷制」
近年の「ブラック・ライブズ・マター」運動のように、アメリカにおける人種差別の問題はこれまでも何度も噴出していまが、その根底にあるのは奴隷制の歴史です。実のところ、世界史上において様々な地域に古くから見られる奴隷制の特徴は、その身分が必ずしも固定的ではなかった点です。それに対して、アメリカの奴隷制はイギリス植民地時代から「人種」と奴隷身分を結びつけて固定化した、きわめて特殊なものでした。人種の境界線を流動的にすると奴隷制が保てないため、法律で「黒人」「白人」を定義し、法制度や社会生活、経済活動、人々の精神世界が「人種」という観念によって根強く支配されていくことになりました。
奴隷制を巡る議論は現在のあり方を教えてくれる?
19世紀に入ると、アメリカでは奴隷州で構成された南部が連邦政治の舞台で劣勢に追いこまれていきました。そうした中、南部では、奴隷制が衣食住を保障する点で、今の感覚でいうところの「福祉制度」であるとする奴隷制肯定論が現れます。これに対して北部では、奴隷制は人間を依存状態にして労働のモチベーションを下げ、社会を停滞させるという論理で反対論が唱えられます。言い換えれば、「福祉制度」は労働の尊厳を傷つけ、人間を堕落させるというのです。この「働くこと=自立すること=一人前の人間」という北部の主張は、現在の私たちが持っている当たり前の感覚とどこか通じるところがあります。アメリカの奴隷制を巡る議論を通して、今の日本に生きる私たちのメンタリティの根源も見えてくるかもしれません。
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西南学院大学 国際文化学部 国際文化学科 准教授 朝立 康太郎 先生
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