「アジア鯉」という表記の禁止からアメリカ人の差別意識を考える
「アジア鯉」ではなく「侵略鯉」にしよう!
2014年5月16日、アメリカのミネソタ州議会で興味深い法令が可決しました。公文書に「アジア鯉」と表記することを禁止し、代わりに「侵略鯉」と明記するのを命じたのです。アメリカ国内のアジア鯉は防除対象魚種です。在来魚の餌を食い荒らす害魚だからです。さらに、外見が「醜く巨大」なことから忌み嫌われています。このようなネガティブなイメージが「アジア」という特定の人種を想起させる言葉と結びつくことで、人種差別を助長する可能性があると判断されたのです。
「不適切な表現の是正」の背景
事の発端は、セントポール市のアジア系コミュニティが鯉の名称の変更を強く求めたからです。ミネソタ州では、中国系の移民が経済界で高い地位を占めており、中国企業も進出しています。つまり、「中国」は地域の経済発展のための重要な「お客様」なので、それを取り逃がすのは困るという意識がミネソタ州議員の間にあったのです。ところが「銀鯉」「頭でっかち鯉」という通称ではなく「侵略鯉」に決定したこと、さらにこの議案を法令に取り入れるのに2分程度しか時間をかけなかったことが、ミネソタ州議員のマイノリティ集団に対する姿勢を表しています。表面上は「不適切な表現を是正する」ことで、アジア系移民に対する差別意識を解消させたかのように見えますが、政治的発信力のあるマイノリティ集団の主張を取り入れることでミネソタ州の経済力を守ることが目的だったのです。
差別意識があるアメリカ社会での生き方
ただ、このように政治的に力の均衡をとり続けていても、人々の差別意識がなくなるわけではありません。警察から取り調べを受けるとき、就職するとき、融資を受けるときなどさまざまな場面で、見かけや名前などの個人情報から勝手にどの集団に属するかを想像されてしまい、不利益を受ける場合があります。このようなことが日常生活では当たり前のこととなっているので、個人レベルでもそれをわかった上で立ち回らなければならないのがアメリカ社会なのです。
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西南学院大学 外国語学部 外国語学科 教授 山元 里美 先生
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