日本文学と世界文学を読み、文化の違いを理解する
遠藤周作にとって「悪」とは
遠藤周作という作家を知っていますか。代表作は『海と毒薬』や『沈黙』ですが、小説だけでなくエッセイや評論も執筆しています。キリスト教の信者でもある彼は、エッセイで、日本人と西洋人との間で揺れ動く自分を打ち明けています。取り上げているのは「悪」の問題や「悪魔」に対するイメージです。日本人は悪魔を身近に感じませんが、西洋人は悪魔(デーモン)に恐怖を感じます。それは人間を罪に導く存在だからです。遠藤は日本人にも西洋人にも「距離」を感じて、自分を「異邦人」と呼んでいました。どちらにもアイデンティティ(自己同一性)を持つことができなかったのです。
西洋と日本の両方を生きる日本の現代作家
現代の日本作家はどうでしょうか。遠藤には日本対西洋という対立軸がありましたが、現代の作家は別の形で自己のアイデンティティを追究しているようです。長年アメリカで生活したバイリンガル作家、水村美苗は両方の言語で小説を書いています。また、アメリカ人であるリービ英雄は、母国語は英語ですが、日本語で小説を書いています。ドイツで生活する作家、多和田葉子はドイツ語で小説を書き、日本語に翻訳して発表しています。この3人の作家は、母語から離れて「越境文学」という流れに入門しました。彼らは自分の中に日本と西洋を持ち、そんな自分をどう表現するかを課題としています。
世界文学と日本文学の共通点・相違点を知る
遠藤は宗教を通して、現代の作家は生活者として、西洋と深く関わっています。彼らが描く世界は日本人固有のものでしょうか、それとも世界共通のものなのでしょうか。それを知るためには、日本と世界の両方の文学を読むことが必要です。特に原文を読み翻訳することで、文化の違いを理解することができます。翻訳が可能であれば、異文化の人にも理解できる共通の世界観であり、翻訳が不可能であれば、その文化固有の要素があると考えられます。小説はフィクションですが、現実とも深いつながりがあり、私たちに世界の真実の姿を教えてくれるのです。
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先生情報 / 大学情報
西南学院大学 外国語学部 外国語学科 教授 ユスチナ・ベロニカ・カシャ(Justyna Weronika Kasza) 先生
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