細菌を撃退する「好中球」の必殺技
免疫を担う「好中球」
免疫とは、ウイルスや細菌が体の中に侵入したとき、それらを外に排除しようとする働きです。免疫は、生まれつき備わっている自然免疫と、一度かかった感染症やワクチン接種により得られる獲得免疫に分類されます。血液中の白血球の中で最も多い細胞である「好中球」は、自然免疫の中心的な役割を担っています。好中球は血液に乗って体の中を流れながら、細菌が侵入していないかを見張っています。
発見し、捕食し、消化し、絡め取る
好中球は人間のものとは違う構造の細胞を見分けることができるほか、細菌を見つけるとくっつく成分が血液中にあるので、それを目印として細菌を見つけ、即座に食べて処理をします。さらに、食べた細菌を消化する際には、消毒液に使うような過酸化水素水などを作り出して無害化してしまいます。
しかし、中には好中球に食べられずに逃げる細菌もいます。その場合、好中球は自らの命を犠牲にして、自分の体内にある繊維状のDNAをクモの糸のように噴射し、細菌を絡め取ります。DNAには細菌を排除する酵素などの物質が付着しているので、DNAが絡みついた細菌はそのまま死んでしまいます。好中球の寿命は1日だけで、体の中では新しい好中球が絶えず作られています。ですから、すべての好中球がこの必殺技を使ったとしても、健康な状態であれば一定の好中球の数を保っていられるのです。
好中球の特徴を治療に利用
この好中球の寿命の短さに着目し、治療への利用が考えられました。血液のがんと呼ばれる白血病は、がん細胞化した白血球が異常増殖することで引き起こされる病気です。もし、がん細胞を好中球に変化させることができれば、1日で死滅してくれるので異常増殖の連鎖を食い止めることができます。そこで、がん細胞と結びついて、その細胞を好中球に変化させる分子標的薬の開発が進められました。その一つに、食べ物などにも含まれているビタミンAの誘導体から、治療薬が製造されています。
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広島国際大学 薬学部 薬学科 教授 山口 雅史 先生
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