試験管やフラスコを使わない新しい化学? 真空技術と化学の融合
宇宙を地上で再現
宇宙のような真空の空間を地球上で再現するために、真空技術が開発されました。真空技術はものづくりにも活用されており、コンピュータやスマートフォンなどに使われている半導体や電子材料の部品も作られています。
真空技術を利用したものづくりでは、固体を加熱・昇華して気体に変えその後冷却する主に「物理変化」を利用して、薄い膜(薄膜)物質が作られています。しかしこの方法では、熱に弱い分子が壊れてしまう、昇華させることができない高分子などは薄膜化できない、といった問題がありました。
真空技術と化学の合わせ技
真空中における新たなものづくりに、化学と融合した固液界面真空プロセス(過程)があります。試験管やフラスコの中ではなく、真空中で「化学変化」を積極的に利用したものづくりです。このとき用いる材料のひとつが真空でも蒸発しないイオン液体です。加工したい部品に塗布したイオン液体を介して、原料分子が真空中で化学反応します。すると分子が結合し、結晶化し、薄膜になります。イオン液体を用いることで高温でなくても化学反応が起こります。そのため熱に弱い分子や高分子の薄膜化に向いているのです。さらに、真空は大気中よりも不純物が少なく化学反応や結晶化をさまたげるものがないので、反応を精密に制御しやすいのです。その結果、従来よりも品質のいい素材を合成できるようになりました。
素材開発を支える技術にするために
化学と真空技術を組み合わせる方法は、将来さまざまな素材を作るときに役立つと考えられています。しかし、実用化のためにはまだまだ課題があります。特にイオン液体を用いた真空プロセスでは、真空中でイオン液体を均一な薄さにするなど狙い通りに加工する技術や合成後除去する技術も不可欠です。また、この方法は、半導体業界からも注目されつつありますが、そもそもイオン液体は半導体にとって不純物とならないのか、性能に悪影響を与えないかなども実証しなければなりません。しかし、それだけに、未来の可能性が十分にある研究と言えます。
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東北大学 工学部 化学・バイオ工学科 教授 松本 祐司 先生
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