微生物に新たな化学物質を作り出してもらうには?

微生物に新たな化学物質を作り出してもらうには?

糖尿病治療薬のインスリン

人間は、微生物の発酵の力を利用して、特定の化学物質を作り出しています。例えば、本来なら体内で分泌されるインスリンが不足することで発病する糖尿病は、以前はブタのインスリンを取り出して薬にしていました。しかし、1970年代には遺伝子組換え技術が登場し、ヒトのインスリン遺伝子を大腸菌遺伝子にコピーして、培養した大腸菌に生産させることでヒトのインスリンを作れるようになったのです。

新たな機能を持つ人工微生物

さらに現在では、遺伝子を切り貼りするゲノム編集などを使って、新たな機能を持つ人工的な微生物を作り出しています。例えば、サプリメントやパーマ液に使われるシステインという物質は、これまで鳥の羽根や人毛のタンパク質などを分解して作られていました。しかし、宗教上の理由などでこうした製品を利用できないという人々もいます。そのため、遺伝子を組換えた人工微生物に糖を発酵させてシステインを作る方法が開発されました。こうした取り組みは、「合成生物学」とよばれる学問として体系化されています。合成生物学は、生分解性プラスチックやバイオ燃料の生産にも役立っています。

微生物のコミュニティ

微生物は100℃近い温泉の中にも、PH10を超える強アルカリ環境の中にも生息しています。知られていない微生物の機能を解き明かして利用すれば、新たな製造法を生み出せます。また、単体の微生物だけでなく、数種類の微生物の組み合わせも考えられます。例えば、生ごみを腐らせてメタンガスが発生する過程は、数種類の微生物が相互作用をしています。単体の微生物の中に有用な機能を組み合わせた今までのやり方と同様に、今度は微生物を組み合わせて人為的な「コミュニティ」に改編することができたら、今までできなかったものが生み出せるかもしれません。これからは資源の循環が求められていますが、微生物は大昔からそれを行っていました。微生物の力を借りれば、資源循環も加速できると考えられています。

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大阪大学 工学部 応用自然科学科 バイオテクノロジー学科目 教授 本田 孝祐 先生

大阪大学 工学部 応用自然科学科 バイオテクノロジー学科目 教授 本田 孝祐 先生

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合成生物学、応用微生物学、遺伝子工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校生の頃はどうしても科学の分野を、化学・生物・物理という切り分け方で考えがちですが、大学では境界領域的な分野が多く、そのような切り分け方はあまり意味がありません。
それよりも、学問を突き詰めて、教科書を書き替えるような新しい知見を得るための「基礎研究」を行いたいのか、誰かが見つけたものを使って社会の役に立つ何かにするという「応用研究」を行いたいのか、魅力を感じるのはどちらなのか考えてみましょう。そのうえで、興味があることを探して、学問の専攻を決めるのがいいと思います。

先生への質問

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。