光合成は再現できる? 光を利用した電子移動から見えてくる未来
光合成を分子レベルで見ると
植物は、太陽の光を利用して光合成を行い、水と二酸化炭素から酸素やでんぷんを作り出します。植物を構成するタンパク質を分子レベルで観察すると、クロロフィルとよばれる光合成色素分子が光エネルギーを吸収することで、反応がはじまります。このはじめの過程を光励起(れいき)といい、光励起状態にある分子中の電子が、違う分子へと次々に移動していく(これを電子移動反応という)ことで、さまざまな化学反応を段階的に起こしていることがわかっています。
瞬間的に起こる反応
この電子移動反応は、マーカスという化学者が理論化し、その功績に対して1992年にノーベル化学賞が与えられました。分子が光を吸収して励起状態になるまでの時間は、10のマイナス15乗から12乗秒と非常に速く、その後10のマイナス9乗秒といった時間の中で段階的にエネルギーが低くなり、さらに1,000倍ぐらいの時間をかけて2つの分子の間での電子移動反応が起こります。一瞬の間に起こる電子移動の過程は、もちろんわたしたちの目ではとらえきれません。研究実験では、「時間分解分光測定装置」という、レーザやLED(発光ダイオード)を使用して特定の光を発生させる装置を使ってその過程を観測したりします。
電子移動の仕組みを応用する
植物をはじめ、生体のタンパク質の中で起こっている光反応を人工的に再現し、応用につなげる研究も行われています。例えば、本来は光合成に関係しないようなタンパク質に、光に反応して電子を移動させる機能をもたせることも可能です。クリアすべき課題は多いものの、一つひとつの過程を分子レベルで再現していくことができれば、例えば植物がないところで、タンパク質を使って酸素を生み出したり、新たな燃料をつくったりすることができるかもしれません。このような研究は、光化学や生体関連化学というような、化学分野の境界的な学問として、大きな役割が期待されています。
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先生情報 / 大学情報
奈良女子大学 理学部 化学生物環境学科 准教授 高島 弘 先生
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